裏金捜査が腰砕けに終わった理由について、マスコミはザル法と呼ばれる政治資金規正法の限界を声高に指摘している。この法律は政治家たちが「抜け道」をあちこちに忍ばせたザル法であり、政治資金規正法の改正が急務なのはそのとおりであろう。

しかしそれが検察の免罪符になるとは私には思えない。なぜなら検察はこれまで相当ハードルが高いとされる数々の事件の強制捜査に踏み切り、強引に起訴してきたからだ。

民主党が自民党から政権を奪取した前後に小沢一郎氏(当時は民主党幹事長)を狙い撃ちした陸山会事件はその象徴である。特捜部は小沢氏の元秘書である国会議員と公設秘書を政治資金規正法違反(虚偽記載)で逮捕し、小沢氏は幹事長辞任に追い込まれ失脚。民主党政権は「小沢vs反小沢」の党内抗争に突入して混迷を深め3年余で幕を閉じた。この検察捜査が自民党の政権復帰をアシストしたのは間違いない。

ところが肝心の事件では、特捜部による捜査報告書の虚偽作成など強引な捜査手法が発覚。小沢氏本人は強制起訴されたが、無罪となった。内政外交の大転換を狙った小沢氏主導の民主党政権を倒す「国策捜査」の印象を強く残す結果に終わったのである。

曇天の国会議事堂
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弱腰の印象は拭えない

こればかりではない。日産会長だったカルロス・ゴーン氏の事件(ゴーン氏は起訴・保釈後に国外逃亡)や厚生労働省局長だった村木厚子氏(のちに事務次官)を逮捕・起訴した冤罪えんざい事件(村木氏は無罪)をはじめ、検察の強引な捜査手法に国内外から批判が噴出した事例は枚挙にいとまがない。

菅氏側近だった河井元法相の選挙買収事件でも、現金を受領した広島市議(当時)らに「不起訴にする」と示唆して「現金は買収目的だった」と認めさせる供述誘導の実態が発覚したばかりだ。

今回の裏金事件は、検察が強引な捜査を進めた過去の事件と比して、あまりに弱腰だった印象は拭えない。本気で大物政治家を立件する覚悟があったのなら、裏金を渡した派閥側の刑事責任を会計責任者の派閥職員ひとりに押し付ける結末にはならなかったであろう。

安倍氏が政治資金パーティーの売り上げノルマ超過分を還流させてきた慣行の廃止を提案して急逝した後、事務総長だった西村氏をはじめ安倍派幹部たちがどのような経緯で還流を継続させることになったのか。真実を徹底究明するには、まずは西村氏ら派閥幹部全員を一斉に家宅捜索し、場合によっては逮捕に踏み切る選択肢もあったはずだ。

それをハナから放棄したことは、この国策捜査の目的がそもそも政治腐敗を一掃することではなく、今年の総裁選に向けて安倍派に壊滅的なダメージを与えることにあったことを物語っている。