保守王国は農業政策も古臭い

第1章でみたとおり、コメを作れないことが弱みだった地域がいまや、より多くの付加価値を生む野菜や畜産などの大産地に変貌している。そういう意味で「ひゃくまん穀」は、名前も開発に至った発想も、旧時代の香りを放つ。

そもそも石川は、時代錯誤の発言を繰り返してきた森喜朗よしろう元首相の地元であり、強固な「保守王国」。「ひゃくまん穀」の開発を決めた谷本正憲まさのり前知事は、7期28年という驚異的な長期政権を敷いていた。命名に古くささが漂うのは致し方ない。

馳知事はというと、森元首相を政治の師と仰ぎ、谷本前知事の県政を継承するとしている。旧時代にどっぷり浸かっているようで、その合い言葉は「新時代」。

ブランド米を売ることで、県内農業を盛り上げようと躍起になる。そんなコメとの向き合い方は極めて保守的で、新しさは微塵もない。

儲からないコメを作るために「田植え休暇」

田植え休み、あるいは、農繁休暇。

この言葉は、地方出身の高齢者にとって、懐かしく思い出されるものであるはずだ。かつて田植えは、一家総出で行われた。子どもが学校を休んで田植えを手伝う田植え休みは、1970年代ごろまで各地でみられた。

田植え休みを取れるよう、県知事自ら要請する県が現在もある。富山だ。

ただし、休むのは子どもではなく、農業以外の仕事を持つ兼業農家。

富山は、コメに極めて依存しており、農地に占める水田の割合は2022年度に95%で全国一を誇る。さらに兼業農家の割合が15年時点で83.8%と高く、全国2位だった。そこで、兼業農家であっても適切な時期に田植えをできるよう、商工会議所や、中小企業や建設業の団体に通称「田植え要請」をしている。

田植えのイメージ
写真=iStock.com/Yuki KONDO
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兼業農家は、まとまった休みの取れるゴールデンウィークに田植えをしがちだ。ところが、この時期に田植えをすると、夏場の高温によって「コシヒカリ」の品質が落ちやすい。そこで、2000年代に富山県が音頭を取って、田植えを5月中旬に遅らせる運動を始めた。以来、商工団体に協力を要請し続けてきた。

新田八朗知事は23年4月、次のように要請している。

「本県農業は兼業農家が大半を占めていることから、本取組みの推進には企業経営者の皆様方に格段のご配慮をいただきたい」

コメに対する思い入れは、半端ではない。関係者が一体となって稲作を盛り上げるべく、自治体や農業の関連団体を構成員として、県が「富山県米作改良対策本部」なる組織まで立ち上げている。本部長は新田知事である。

コメを支えるその体制は盤石にみえる。肝心のコメが儲からないことを別にして……。