母親のゴミ箱係

母親は極度の心配症で、テレビや雑誌で病気のことを知る度に、「こんな病気になったらどうしよう!」「ああなったらと思うと怖くてしょうがない」とまだ罹ってもいない病気に対する不安を高戸さんにぶつけた。

「母は当時としては結婚も出産も遅かったらしく、『周りがどんどん結婚・出産しているのに自分がなかなかできず、焦っていた』と言っていました。地方公共団体の職員でしたが、寿退社して専業主婦になると、『あなたたちのために、私は仕事をせず専業主婦をしている』と言い聞かされました」

高戸さんが物心ついた時、すでに両親の仲は悪く、母親は口を開けば病気不安や父親の愚痴、他人の悪口ばかり。しかもそれを聞かされるのはいつも高戸さんだった。

「母はどうやら、『夫の悪口を子どもに聞かせてはならない』と頭ではわかっていたようです。そのため、父の悪口の最初には『アタシはね! 子どもに夫の悪口を聞かせてはダメだってわかってるのよ!』という枕ことばをちゃんとつけました。これは『私は本当はわかってる。だから私は悪くない』と自分自身に言い聞かせるための儀式だったのでしょう」

頭が爆発している男性
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父親は、家では気に食わないことがあると突然激怒することがあるため、母親も高戸さんも腫れ物のように扱っていた。しかも父親は外面だけは良い人であり、母親自身も世間体を気にする性格だったため、自分の夫の悪口を他人に聞かせるという選択肢はなかった。

「両親は妹には一切攻撃しなかったので、ノーダメージです。母が吐き出す愚痴や悪口のゴミ箱係は私だけでした……」

妹は泣いてもすねても「かわいい、かわいい」と両親から手放しで溺愛されていたが、高戸さんは容姿を笑われ、何を言っても「生意気だ」と怒鳴られ、殴られていた。

しかも母親は、要らぬ心配をする割には、父親から暴力をふるわれる高戸さんを庇ったことは一度もない。

「母は、私に暴力をふるう父をいさめないどころか、父を必死で正当化し、『アタシたちはお父さんに養ってもらってるんだから我慢しなさい!』などと私に言い聞かせました。母は、父から虐待を受ける子を守るよりも、父と結婚生活を続け、専業主婦でいられる環境を守ることのほうが大切だったのです」

母親は自分の夫が暴虐的であることを必死で否定し、「アタシはあんたたちのためにお父さんとは別れないの!」と、“本当は別れたいけど、別れられないのはあんたたちのため”と子どものせいにした。

幼い高戸さんは、「私が存在しているせいで、お母さんはあんな怖いお父さんと離れられないんだ……」「お母さんがつらいのは自分がいるせいなんだ……」と自分を責めた。

「人は限界を超えたストレスを抱えると頭がバグって、やっちゃいけないことを平気でやってしまうのかもしれませんが、それにしてもやることの質が悪すぎますよね。母には自分のせいで子どもが罪悪感に苦しむと想像できなかったのでしょうか……? それとも意図的に罪悪感を持たせ、子を自分の味方に引き入れようとしていたのでしょうか……? だとしたら、極悪すぎますよね」