2022年、パナソニックHDのCEOに就任した楠見氏は、60年ぶりに、同社の経営基本方針を改訂した。そのうえで、新しいブランドスローガンを作成。自ら「30年間成長しなかった」と表明する会社を建て直すのに、数字よりも会社の存在意義を最優先したのはなぜか。ブックライター上阪徹氏が楠見CEOにその真意を聞く――。(第2回/全2回)

※本稿は、上阪徹『ブランディングという力 パナソニックはなぜ認知度をV字回復できたのか』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

従業員には「上を見るな」、経営陣には「任せて任さず」

――事業会社化による「自主責任経営」や、従業員向けの「社員稼業」といったキーワードもインパクトがありました。

弊社の自主責任経営というのは、もともと従業員一人ひとりが自主責任経営をしないといけない、ということだったんですよ。

一方、事業会社とか事業部という単位に求める自主責任経営というのは、上を見るな、ということなんです。上に指示を仰いで経営すんのとちゃうで、と。自分で経営すんのやで、と。

ただし、上に対しては、逆にいうたら、事業会社や事業部に対してほっとくんじゃない、と伝えてあります。任せて任さず。そういう意味なんです。任せて任さずやけれども、財務規律という意味では、しっかり手綱を引いておかないといけない。

儲けてないのにどんどん拡大する、みたいなことは許されないですね。あてもないのに投資をするとか。

社員稼業も、すべて共通している話なんですよ。一人ひとりが個人商店の店主のようになるということ。歴史館でもエピソードが書かれていますね。でも、これは結局、一人ひとりの社員が、経営基本方針(編集部注:2021年、パナソニックHDは楠見CEOのもと、約60年ぶりに経営基本方針を改訂)を実践するということなんです。

事業のベクトルという話と、一人ひとりの行動という話があって、もちろんある事業に従事している社員は、その事業のベクトルに沿ってやらないといけません。

その中には多様な意見や多様な経験が生かされるというのはあるんですが、一人ひとりということに着目したときには、そこに共通の価値観であるとか、行動指針みたいなものがあって、それが本当に高いレベルで個々人に実践されている状態になったら、それは企業として一番強い状態ですよね。

個々人が常に自分の能力以上のパフォーマンスを発揮している状態って、すごくないですか? 個々人が常に能力を高める、そういう機会が得られる。普遍的な行動指針があって、その行動指針にのっとって行動レベルが上がっていく。そしてパフォーマンスを発揮するということになったら、これはすごい会社になれると思うんですよ。

人ということに着目した指針というのは、私は一番大事だと思っています。それはブランドというものを語る上でも、他社のパートナーと仕事をするということにおいても信頼が得られるでしょうし、またあの人と一緒に仕事がしたいな、ということになる。そうなったら、最高じゃないですか。

楠見雄規 パナソニック ホールディングスCEO
写真提供=パナソニック ホールディングス
楠見雄規 パナソニック ホールディングスCEO