本当に「初志貫徹」こそが理想的なのか

ジョン・デューイ(1859~1952)
アメリカ合衆国の哲学者。プラグマティズムの思想家。教育と社会改革を進める。著作『哲学の改造』など。
太平洋戦争終結後、日本でアメリカ教育使節団による教育改革が行われた際、そのなかには進歩主義的なデューイの教育論が含まれた。

【ベテラン役員】やはり、人生はひとつのことを貫くのが一番だと思うよ。ほら、かの孔子も『論語』でいっているでしょう。「私の人生では、終始一貫、ひとつのことで貫かれていた」(『論語』里仁篇)とね。我々もこうあるべきではないかね。

【デューイ】それは理想ですね。しかし、私のようなアメリカ人にとって、ずっと同じ立場を貫くというのは、なかなか難しい話です。なにしろ人種もさまざまで、価値観も多様です。現代はさらに変化の激しい時代でしょうから、考え方を臨機応変に変えていかないと。

【ベテラン役員】いやいや、「一を以て之を貫く」という考えは情報量が多い現代社会にも通じることだよ。心はブレやすいものだから自分の考えを貫くことが必要なのだ。

知識や思想は現実の問題を解決する道具である

【デューイ】お言葉ですが、むしろ思考は道具なのですから、状況に応じて取り替えたほうがいいのです。道具主義と呼ばれているんですがね。

【ベテラン役員】思考は道具? どういう意味かね。

【デューイ】私は思想や知識は問題を解決するための手段であり、その場その場で最適なものを使い分けるべきだと思うのです。これが「思考は道具」という言葉の意味です。

KEYWORD 道具主義(英:instrumentalism)
デューイは、知識や思想、論理は「現実の社会生活のなかでぶつかった問題を解決するための手段」、つまり道具であると考えた。道具主義では知識を絶対のものとは考えずに、「検証されうる仮説」であるとする。つまり知識や思想の価値は、その場その場で発生する問題を解決できるかどうかの検証で決まるとされた。そして、それを判断する知性はその人の行動の結果によって実証されていくと考えた。

【デューイ】たとえば「カレーというのは辛くあるべきだ」という考えをもっている人がいたとします。この人が初志貫徹に固執していると、「辛いのが苦手な人に甘口カレーをつくってあげよう」という発想は出てこないわけです。このように、思想や知識はひとつのものに捉われず、臨機応変に変えるべきなのです。

【ベテラン役員】でも、たとえばこういう場合はどうだ? 思想が変わっていって、結局似たような方向にまた戻ってくるようなこともあるんじゃないか? そうすると、ただ回り道をしているだけだぞ。周囲からは頼りないと思われるかもしれん。