3mの擁壁が土地の価値を大きく左右する

まず、基礎控除ですが、3000万円と相続人が3名なので600万円×3=1800万円の合計4800万円となります。次に実家の土地建物の相続税評価額を計算すると、約6800万円とそれだけで基礎控除を超えてしまいます。さらに、実家に同居する兄弟姉妹はいないなど小規模宅地等の特例も使えないようなので、相続税の納税が生じるかと思います。

このAさんのご実家ですが、住宅街のなだらかな坂の途中に築浅のお洒落な木造の実家が建っています。前面の公道道路もトラックの通行が可能なほど幅員もあります。しかし、前面道路と敷地の間に3m程の高低差がありますので、建て替えをする場合はこの高低差を支えるコンクリートの擁壁が再利用できるかどうかで土地の価値が大きく変わりそうです。

家の模型を観察する男性
写真=iStock.com/years
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その他には隣との境界トラブルなども無いようなので、大きな減額になる要因はなさそうです。以上から、実際に実家を売却できる金額の目安は近隣の取引事例等から7000万円程になるのではないかと見込まれます。

兄弟の遺留分として2333万円の準備が必要

では、もし、Aさんが1人でご実家の土地建物を相続しようとした場合、どのような対応が必要になるかを考えてみましょう。遺産が実家不動産のみと仮定した場合、法定相続割合で遺産分割しようとすると、Aさんは他の兄弟姉妹の法定相続分(3分の2)に相当する代償金を支払う必要があり、7000万円の3分の2に相当する約4666万円もの大金の準備が必要となります。

そこで、実家をAさんに相続させる旨の遺言書を母親に作成してもらうことが考えられますが、その場合でも、他の相続人の遺留分(他の兄弟それぞれ6分の1ずつ)を侵害することになるので、Aさんは他の相続人に対し遺留分侵害額相当のお金を支払う必要があり、7000万円の3分の1(6分の1+6分の1)に相当する約2333万円が必要となります。

このようなことから、やはり1人が実家を相続することは大変なことがわかります。実家を使いたい、残したい気持ちがあっても、他の相続人に一定の支払いを行う覚悟が必要ということなのです。