すべての責任者の同意のもとに優先順位がつけられる
さらに、インドのように州政府などの地方政府に相当な権限がある場合には、公共政策チームも中央から地方まで階層的な対応をせざるを得ない。このような統治機構上の事情も考慮しなければならない。
公共政策チームが対応すべき課題は、小さなものまで数え上げればきりがないが、業務に割けるリソースには限りがあるので、取り組むべき課題には優先順位をつけることになる。アメリカ公共政策チーム、国際公共政策チーム、AWS公共政策チームが一丸となって、ワン・アマゾンとして優先的に取り組むべき課題とゴールを毎年定める。そしてこれらの課題とゴールは、CEO直下のエスチームと呼ばれる全部門のシニアリーダーシップで構成される会議で決定される。
つまり、公共政策チームが独自の判断で優先順位を決定するのではなく、ビジネス部門などのすべての責任者の同意のもとに決定されるのである。
また、これらのゴールは測定可能なものでなければならず、毎四半期ごとに進捗状況の確認作業が行われ、毎年ごとにゴールが達成できたのか(グリーン)、達成できなかったのか(レッド)に明確に二分され、評価されることになっている。
アマゾンの各国への立場は極めてシンプル
ここで各国の具体的な課題やゴールを開陳することはできないが、概して言えることは、アマゾンは各国からの政策提案にやみくもに反対している訳ではなく、あきらかに不合理と思われる提案に対して粘り強く修正や廃止を求めるというシンプルな立場をとっている。
例えば、事実に基づかず政治的なテックラッシュに由る提案や、国内産業を守る保護貿易主義(プロテクショニズム)による提案や、企業間(例えばオンライン小売とオフライン小売間)のレベルプレイングフィールド(公正な競争条件)が確保されない差別的な提案や、クロスボーダー取引(国境を越える取引)に著しい支障をもたらす提案や、商業上の秘密やノウハウなどを毀損しかねない提案や、国際協調路線と異なる単独行動主義(ユニラテラリズム)による提案などがそうである。
政策立案が官僚主導で進む国もあれば、議会主導で進む国もあるなど国によって仕組みが異なるので、そのロビイング手法やアプローチの仕方に違いはあるものの、ロビイングの思考法としては、本書で紹介する日本の事例と同様に、アマゾンのリーダーシップ・プリンシプルに基づくものとなっている。