食べログとクックパッドを一大サービスに育てた経営者・穐田誉輝さんは2014年、オランダの画家、ヨハネス・フェルメールの『聖プラクセディス』を10億8600万円で落札した。全37点のフェルメール作品のうち、アジアにあるのはこの1点だけだ。なぜ絵画をコレクションするのか。ノンフィクション作家の野地秩嘉さんが聞いた――。

※本稿は、野地秩嘉『ユーザーファースト 穐田誉輝とくふうカンパニー 食べログ、クックパッドを育てた男』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

穐田誉輝さんが10億8600万円で落札したフェルメールの『聖プラクセディス』
穐田誉輝さんが10億8600万円で落札したフェルメールの『聖プラクセディス』(出典=『ユーザーファースト 穐田誉輝とくふうカンパニー』)

「儲かりそう」ではなく、価値が上がるものに投資する

日本の総合商社の株を大量に取得した世界屈指の投資家ウォーレン・バフェットは投資についての自らの哲学をこう語っている。

「農場を買収しようとする場合、毎日その値段ばかりを見る人はいません。買い値に対してどれくらいの生産高が見込めるのかというところを見るでしょう。株式投資もそれと同じです」

穐田の投資に対する考え方も同じだ。値上がりするだろうからという予測で投資するわけではない。対象が持っている価値に比べて評価されていないものを買う。加えて、いつになっても価値が変わらないもの、価値が上がっていくものに投資をする。

Zaim、キッズスター、みんなのウェディングに出資したのは価値が上がっていくと判断したからだ。その後も、チラシ情報サービスのトクバイを個人で買収し、さらに住宅、不動産サービスのオウチーノを買収している。

買収した会社は成長している。

むろん、それぞれの会社の社員たちが仕事をした結果だが、買収した当時の価値が割安だったこともある。彼の投資は一般の目に留まっていない価値のあるものを見つけるところから始まる。

そして、成長のアシストをする。あるいは直接、経営して価値を上げる。値段よりも潜在的な価値に注目している。

10億8600万円のフェルメール作品を落札

潜在的な価値に目を付けた典型的な買い物が《聖プラクセディス》だろう。オランダの画家、ヨハネス・フェルメールが描いた作品だ。フェルメールの作品は世界で37点とされている。アジアにあるのは穐田が所有しているこの1枚だけだ。

2014年当時、クリスティーズのオークションで落札した価格は10億8600万円(加えて手数料15~29パーセントと税金)だった。真作かどうか、まだ評価が分かれていた頃だから、その値段で済んだ。

2023年、この作品はオランダのアムステルダムで行われた「フェルメール展」で真作として展観された。評価が定まったわけだ。すると、この絵画の値段は同じ画家の《真珠の耳飾りの少女》の推定150億円まではいかないだろうけれど、次に取引される場合は10億円では買えない。

会社に対する投資だけでなく、穐田は美術作品の買い物でも成功した。

彼が美術品を好きになったのはカカクコムの代表になった後、奈良美智の作品を300万円で買ったことがきっかけだった。本物を見て、買ってみたことからコレクションを始めた。それ以降も奈良作品を手に入れ、今では20点以上も持っている。他の作家の絵画や工芸品も所有している。

しかし、彼は作品を展示していない。すべて美術倉庫に預けていて頼まれたら展示することもある。