「本当は恐ろしい」のはグリム童話だけではない。日本の民話にも残酷なものはある。「かちかち山」がその一つだ。何が残酷なのか。ジャーナリストの池上彰さんと作家の佐藤優さんとの対談をお届けしよう――。(第2回/全3回)

※本稿は、池上彰・佐藤優『人生に効く寓話』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

狸のイメージ
写真=iStock.com/rai
※写真はイメージです

◎あらすじ

昔あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいた。ある日、仕掛けておいたわなに、畑を荒らす古だぬきがかかる。おじいさんは、縛り上げて担いで家へ帰り、天井のはりにぶら下げて、また畑へ出かけた。ところが、おばあさんはたぬきに殺されて、「ばばあ汁」にされてしまう。そればかりか、おじいさんが化けたたぬきに騙されて、それを食べてしまった。おじいさんが泣いているところに、裏山に住む白兎がやってきて、かたき討ちを約束する。

まず、栗を欲しがるたぬきに、「柴を向こうの山まで背負っていったらあげよう」と言い、後ろを歩きながら、背中の柴に火をつけた。あくる日、火傷を負ったたぬきの見舞いにきた兎は、唐辛子みそを薬だと偽って、たぬきの背中に塗りたくる。最後は、たぬきを海に誘い、土の舟に乗せて沖へ出る。土は崩れ、たぬきの乗った舟は沈み始めた。「助けてくれ」と慌てるたぬきをおもしろそうに眺めながら、兎は「おばあさんを殺して、おじいさんにばばあ汁を食わせた報いだ」と言った。たぬきはとうとう沈んでしまった。

(「かちかち山」楠山正雄)

本当は恐ろしい日本の民話

【池上】我々が今回あらためて読んだのは、大正・昭和期の児童文学者、演劇研究家の楠山正雄の手による「かちかち山」です。おじいさんの留守に、おばあさんを殺して「ばばあ汁」にしちゃう。それだけで気持ちが悪くなるのに、長年連れ添ったおじいさんに食べさせてしまうというのですから。グリム童話だけではなく、日本の民話も相当恐ろしいんですね。

子どもに読み聞かせる絵本の世界では、さすがに強烈過ぎるということで、多くは、おばあさんに改心を誓って縄を解かれたたぬきは、そのまま逃亡。ラストも、泥の舟もろとも沈みそうになったのをギリギリで助けられて、たぬきは今度こそ悔い改めました、といったストーリーに改変されています。

【佐藤】多くの日本人が、「かちかち山」といえば、火のついた柴を背負って慌てるたぬきと、泥舟のシーンを思い浮かべるのは、そのためでしょう。ちなみに、テレビアニメの『まんが日本昔ばなし』では、おばあさんは、「汁」にはされないものの、殺されてしまいます。泥舟に乗ったたぬきは、溺れ死んで、ジ・エンド。