自らを「巨象に挑む挑戦者」として位置付けた

映画、小説、マンガなどに出てくるヒーローは、ほとんどの場合「弱者」である。この設定は「人は弱者が強者を倒そうと挑む姿」に喝采を送るという性質に基づいている。

あえて敵を「大きな存在」として印象付けることで、自らを「巨象に挑む挑戦者」として位置付けているのだ。私は孫社長のこの発言を、テレビ東京の『WBS』で放送した。

テレビ局内の主調整室
写真=iStock.com/TommL
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当時、ソフトバンクの広報室から私は何度か電話を受けたことがある。「孫社長がインタビューを受けたいと言っているが、いかがでしょうか」。孫社長のような有名な経営者が広報経由でインタビュー取材を売り込んでくることなど、まずない。テレビ東京以外にも「売り込み」をしていたことは想像に難くない。まさに広報室総出で広報戦を仕掛けていたのだった。

こうしたソフトバンクの攻勢に対し、NTTの広報対応は実に「紳士的」だった。私はテレビ東京の通信業界担当キャップという立場だったが、NTTから「取材の売り込み」などの何らかの働きかけを受けたことは一切ない。前述の孫社長のあからさまな「NTT敵視発言」を放送した際も、NTTからは何の反応もなかった。

NTTの「紳士的」な広報対応

ちなみに、当時の番組スポンサーには「NTTコミュニケーションズ」が含まれていた。だが、テレビ東京の報道局内はもちろんのこと、営業局や広告会社からも何か指摘されることは一切なかった。

もちろん私の耳に入ってこないだけで、NTTの担当営業は「嫌味のひとつ」も言われたかもしれないが。いずれにしてもなにか騒ぎになることもなく、その後も長く「NTTコミュニケーションズ」はスポンサーであり続けた。「スポンサーであっても、報道番組に干渉しない」姿勢は「さすが日本を代表する伝統的な大企業グループ」と言える。

余談になるが「『WBS』はスポンサーの競合企業は取り上げないので注意するように」などと、今でもかなり売れている「広報の専門書」に記してあるのを目にしたことがある。

「もっともらしい解説」なのだが、当時も今も「トヨタが電気自動車に関する戦略を発表しても、スポンサーのスバルの競合にあたるから取り上げない」などやっていたら、経済報道番組として成立しない。経営者や広報担当はこうした「専門家」による「もっともらしい解説」には、注意してほしい。