一流の航空機、自動車メーカーから受注

機器には「MTS」と刻印されている。MTS社は米国の材料試験の有力企業で、その分野での実績は世界のトップを誇る。そのMTS社の一台数千万円という精密機械が百台以上並ぶ圧巻。担当者から「これだけMTS製の金属疲労の検査機械を有する会社は、日本にはない。アジアでも最大級です」と説明を受ける。

国内でMTS社の試験機器をこれほどそろえているのはキグチテクニクスのみ
撮影=プレジデントオンライン編集部
国内でMTS社の試験機器をこれほどそろえているのはキグチテクニクスのみ

隣の工場では、金属の塊や試験用の金属ピースが無数にあった。「ここは何ですか?」「先ほどの検査機械にかけるために、金属を切り出して、検査できる形に加工、研磨し作り出しています」。そこには自動車や航空機のエンジン、機体、発電所のタービンやブレードなどこれから検査を待つ、金属という金属が並んでいた。

会社の守秘義務があり、詳しくは触れられないが、海外の有名な航空機メーカーやエンジンメーカー、国内の一流自動車会社、製造業からの発注製品が検査のための順番待ちとなっていた。

「ここで金属材料のテストピースを作り、評価試験を行います。外見の加工だけではなく、材料そのものが持っている特性をそのまま残して加工していく。マイクロ単位で金属を加工し、研磨をして検査をしないと正確な数値は出てこない。これがうちの独自技術です」と順一郎さんは胸を張る。

試験機器の規格に合うように金属を切り出し、加工する技術も必要となる
撮影=プレジデントオンライン編集部
試験機器の規格に合うように金属を切り出し、加工する技術も必要となる

下請け企業のままでは暗い未来しかない

キグチテクニクスが、今では会社の看板になっている難易度の高い金属の疲労試験に参入したのは、2005年のことだ。そもそもなぜ金属研磨の会社、しかも大手メーカーの下請けを担っていた小さな山陰の専門会社が金属検査で世界を相手にする会社になったのか。そのきっかけは、木口順一郎さんのある突拍子もない発想だったという。

当時、同社の総務部長だった順一郎さんは考えていた。これまで発注を受けてきた大手の日本の金属会社も時代の変化の中で海外勢にどんどんシェアを奪われて弱っていく。親が弱れば、仕事を受けている子供はもっとやせ細っていく。未来を見据え、新たなチャレンジをせねば将来はない。

そこで目を付けたのが航空産業だった。「最高の技術が集まるのはやはり航空・宇宙分野。一番手間のかかる産業だからこそ、付加価値のある金属加工ばかりやってきたという経験を事業の柱にすれば、誰もが真似できないもの作りが出来ると自負がありました。儲かるか儲からないかより、他がやらないことをやろうと考えたんです」