世界最高のヤスキハガネで培った加工技術

会社の沿革は、1961年に遡る。順一郎さんの祖父で、日本刀の研磨をしていた木口寿さんが安来市内に6人の従業員とともに木口研磨所を創業した。

島根県は古代から良質な砂鉄の産地で、たたら製鉄(日本の古代から続く製鉄技法。近代まで国内鉄生産の大部分を担った)でも名前を轟かせていた。日本刀の原材料となる純度の高い玉鋼たまはがねが作られ、安来はその中心として戦前から盛んに鉄鋼業が行われた。旧日立金属(現プロテリアル)が東洋で初めて電気製鋼を開発。高性能機器向けの特殊鋼「YSSヤスキハガネ」が作られる地としても名を馳せた。

世界最高の強靭きょうじんなヤスキハガネを通じて培った加工技術をベースにして、木口研磨所は、大手金属会社や関連会社の仕事を中心に素材加工や顕微鏡ミクロ試験用の材料研磨を行う会社として成長していく。1977年には従業員は50人を突破し、1991年には社名をキグチテクニクスに変え、試験部門を中心に会社は大きく飛躍していった。

工場内には最新鋭の検査機器がずらり

「口で説明するより見てもらったほうが早いかもしれません」と早速、会社工場を見て回ることになった。オフィスの横には、金属の検査機器がずらりと連なる。銀色の円筒形の機器やコンピューターにケーブルが繋がった検査機械が整然と並び、まるで巨大な研究室のようだ。

クリープ試験機
撮影=プレジデントオンライン編集部
金属に一定の荷重を加え、破断するまでの時間を測定する「クリープ試験機」が約300台並んでいる

「なぜこんなに最新の検査機器があるのだろうか」。疑問はますます膨らむ。田畑が広がる自然たっぷりの外の景色と不似合いな近代的すぎる不思議な光景だった。

よく見ると機器には金属が挟まれ、高圧をかけたり、引っ張ったりと強度検査が行われている。1500℃以上に熱したものがあれば、逆に機器の外に氷がついているものもある。どのくらいで金属が破断するのか、あるいは曲がるのか、繰り返し試験しているという。

ここはさまざまなエンジンや建物、工業製品に使われている金属の化合物、複合材料、セラミックなどの構造評価や強度疲労試験を行う工場なのだ。

見た目では同じに見える金属も、実は中身はさまざまな加工が行われており、顕微鏡よりも小さな分子レベルで配列や劣化を調べると、金属の強さ、耐久度、疲労具合を把握できる。一度の説明では素人は理解できないが、非常に高度かつ繊細な技術を駆使しているということは分かった。

飛行機のエンジンの中は最高1700℃の高温でジェットを吹き続ける。また機体は高高度ではマイナス50℃もの低温で冷やされる。その中で壊れないで動き続けないと安全は確保できない。どのくらいで金属破断するのか、実際の環境よりもさらに過酷な試験を行ってはじめて安全担保が可能になるのだ。