野球を知らない教師たち

前述のように「ベースボール型ゲーム」の導入が決まってから、NPBは指導用教材を無料配布するとともに、各地の小中学校や球場で、教員を対象とした「ベースボール型授業指導研究会」を実施している。

子どもたちを集めて元プロ野球選手が野球教室を実施し、それを教員が見学するなど、いくつかのパターンがあった。筆者は何度か取材したが、驚いたのは、30代以下の教員のほとんどに野球経験が一切なかったことだ。男性教員であっても「サッカーは小さい頃にしたことはあるが、野球は知らない」という先生がほとんどだった。

ボールの投げ方、捕り方、打ち方も知らない。ルールもおぼろげ。そういう先生に、NPBの元選手なども含め、スタッフが一生懸命に指導するのだが、一度や二度の講習で、野球の楽しさが理解できるとは思えなかった。

また、教員の中には「なぜ野球だけ重視するんだ」と言う人もいる。「小さい頃、父親が野球ばかり見て、好きなテレビ番組を見ることができなかった」などの理由で野球に反感を持つ人も少なくないのだ。「野球人気が衰えたというが、他にもたくさんスポーツはあるのだから、このくらいがちょうどいいのではないか」という見方も存在するのだ。

小学校に届いた3つのグラブをどう活用するかは、学校側に委ねられているのだろうが、小学生にひととおり見せて、あとは職員室に飾っておしまい、ということになりかねない。

サッカー界と野球界の決定的違い

スター選手が野球少年に向けてさまざまなプレゼントをするのは、オフの恒例になっている。例えばイチローさんは、毎年各地の高校で野球教室を実施している。今年も旭川東高校で行った。また、松井秀喜さんも今年、八王子市内で恒例の野球教室を実施している。プロ野球名球会も、各地で野球教室を実施している。日本のスター選手も野球教室を実施しているが、これらはすべて「点」で終わっていて、発展的な展開がない。

サッカー界に目を向けてみると、少子化の中で裾野の維持、拡大をめざすために、2002年に日本サッカー協会(JFA)は、「JFAキッズプロジェクト」を立ち上げた。翌年から47都道府県サッカー協会と共に各地の保育園や幼稚園でボール遊びなどを教える巡回指導をはじめ、キッズフェスティバルやファミリーフットサルなどさまざまな取り組みをスタートしている。サッカー界は全体が普及活動に取り組んでいるのだ。

しかし野球界は、プロ野球からアマチュア野球まで、また個人が個別に野球教室などをバラバラに行っている。

筆者撮影
2018年、メットライフドーム(現ベルーナドーム)で行われたNPB主催「ベースボール型授業」の研究会

 

高校野球は2018年に「高校野球200年構想」を発表し、高校が主体となった普及活動を実施するとした。しかしこれは、各県高野連、各高校の自主性に委ねられ、大きな動きとはなっていない。また、NPB球団の中には、年間予算を組んでベースボールアカデミーやスポーツアカデミーなどを本格的に展開しているところもある。またエリア内のアマチュア球界と連携している球団もある。しかしNPBの場合、フランチャイズの縛りがあるので本拠地以外では原則として活動できない。

そしてプロ側はアマの普及活動に理解を示しつつも、共同での活動は行っていない。