ドラマの登場人物には「憧れ」が込められる

小説やドラマ、アニメの主人公や、歴史上の人物、有名人などの名前をまねる名づけは、いうまでもなくその人物の生き方に対する憧れからである。このようにつけられる名前は、ひとまとめで「あやかり名」と呼ばれる。

もともと、何かに憧れる名づけはいつの時代でもある。

例えば昭和の時代までは、女の子の名前には「子」をつけるのがなかば常識だった。これはさかのぼれば明治時代にステータスの高い女性に多かった「○子」という名前が、多くの一般市民にマネされて定着したからである。

また今でも男の子でヘイ(平)とか、スケ(介、輔)がつく名前は多い。これも明治のむかしに高い地位への憧れから広まった。兵、平の字はもとは兵衛(ひょうえ)という官職名から流行し、また助、介、輔などスケと読む字も、為政者を助けて補佐する人という意味で、官職の名として使われた字である。

特定の人物をまねた「あやかり名」は、つける親も気分が良く、他の人にもよい印象を与えるだろうという安心感がある。過去にも芸能人やスポーツ選手などの名前が一時的に流行した例はかなりある。

つけられた本人まで有名になったのが、西武ライオンズやレッドソックスで活躍した松坂大輔投手。早稲田実業野球部の荒木大輔をまねた名前である。まさかそっくり同じような生き方になるとは親も予想しなかったかもしれない。

ボストン・レッドソックス時代の松坂大輔投手
ボストン・レッドソックス時代の松坂大輔投手(写真=switz1873/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons

「あやかり名」が裏目に出ることも…

ただし有名人と同じ名前なら問題ない、というわけではない。中には正しく読めなかったり、聞いただけでは性別を判断できなかったりする名前もある。そういう名前は、有名人の場合、不便はないだろうが、一般人がマネをすれば社会生活で混乱は避けられない。

もっとも世の中の名づけの流れのほうが変わってしまったこともある。タレントの浅香唯さん、早見優さん、西田ひかるさん、宇多田ヒカルさんなどがその例である。それまでは「唯」はタダシと読む男性の名、「優」はマサルと読む男性の名、そしてヒカルという呼び名も男性の名だった。でもこれらの有名人の影響で名づけの傾向が逆転してしまい、今では唯、優、ヒカルは圧倒的に女の子の名である。

しかし、そういう逆転が起きるかどうかは、前もってわかることではない。

また「あやかり名」は、本人をよくわかっていて心から尊敬できるならともかく、ただ有名人と同じだとかっこいい、などと安易な感覚でやると、結果が裏目に出ることもある。昔、政治家の田中角栄と同じ名前をつけられた人が、田中角栄本人が逮捕されてしまったため、名前がイメージダウンして困って改名をしたという話もある。

その意味では、歴史上の人物とか、アニメやドラマの登場人物は安全かもしれない。