交友関係が「共依存」に陥っている

さらに『荘子』では、以下のように続きます。「君子は淡くして以って親しみ、小人は甘くして以って断つ。彼の故無くして以って合する者は、即ち故無くして以って離る」。つまり、君子の交友は淡いからこそ続き、小人の交友は甘いがゆえにすぐに終わる。必然性もなく、ただ「一緒に居るために一緒に居る」ような付き合いはすぐに終わるのだという、まあかなり意訳していますが、そういうことを言っているわけです。

小人の交わりというのは「故無くして断つ」わけで、そこには自立という観点がありません。つまり、お互いがお互いに依存している状況になっていて、そこから抜け出せずにベタベタと付き合っているということです。心理学ではこの状況を「共依存」という概念で整理します。

自己実現が達成できないと、人間関係も広く薄くなる

共依存はもともと、アルコール依存症の患者がパートナーに依存しながら、また同時にパートナーも患者のケアという行為に自分自身の存在価値を見出していくような状態がしばしば観察されたことから、看護現場において生まれた概念です。

山口周『武器になる哲学 人生を生き抜くための哲学・思想のキーコンセプト50』(KADOKAWA)
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そして、ここが重要な点なのですが、共依存の関係にあるアルコール依存症患者とそのパートナーは、アルコール依存症そのものが関係性を維持するための重要な契機になっていることを無意識のうちに理解しているため、依存症の治癒につながるような活動を妨害(=イネーブリング)したり、結果として患者が自立する機会を阻害したりする、という自己中心性を秘めていることが報告されています。

表面的には「他者のため」という名目で、本人自身もアタマっからそう自覚しながら、実は内に自己本意な存在確認の欲求を秘めている。これが共依存の関係です。話を元に戻せば、私たちの「広く、薄い」人間関係もまた、そのようになっていないか。

マズローによる「自己実現を成し遂げた人は、ごく少数の人と深い関係を築く」という指摘は、今あらためて、私たちの「人のネットワークの有り様」について考えるべき時が来ていることを示唆しているように思えます。

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