2012年11月2日(金)

新入社員:一人前になるまでの居場所をつくる -実例「私がやる気満々になった!」上司の声かけ【1】コクヨ/竹中工務店

PRESIDENT 2010年9月13日号

著者
山川 徹 やまかわ・とおる
フリーライター

1977年、山形県生まれ。國學院大学文学部卒業。大学卒業後、フリーで執筆活動を続ける。著書に『捕るか護るか? クジラの問題』(技術評論社)などがある。

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山川 徹=文 プレジデント編集部=撮影

「ゆとり」扱いは離職率高めるだけ

コクヨ→「素」でぶつかりあう3年間チューター制度

社会人としての一歩を踏み出した3年前の春。コクヨに入社した北川真衣さんはインターネットで文具の販路拡大を担当する部署に配属になった。けれど初仕事にこんな戸惑いを感じていた。

自分がやりましたと、ひけらかしているみたいで苦手だな……。

販売店向けのウェブサイトで、お勧め商品を紹介するのだが、商品だけでなく北川さんの名前や顔写真も掲載されるからだ。

コクヨS&T コンシューママーケティング事業部の北川真衣さん。

「北川さんが納得して仕事に取り組めるように何度も真剣に話しあいました」とチューターとして北川さんを指導した八木章光さんは振り返った。

「最初から望むような仕事を与えられる機会はほとんどありません。それでも、ひとつずつ仕事を成功させれば、自分の“居場所”ができる。仕事を続けていくモチベーションはそこから生まれると思うんです」

数年前までコクヨはひとつの問題を抱えていた。離職率の増加。当時、入社3年以内に20%前後がやめていた。2005年、改善策として先輩社員がひとりの新人を3年もの長期にわたってマンツーマンで教育する「チューター制度」を導入した。それまでは研修期間中にいくつかの部署の実務を経験した後、本配属になっていた。

「一律に一気に教え込んでも方向性を見失ってしまう」

八木さんの言葉は自身の体験に起因している。八木さんには2度の転職経験がある。かつてはトップダウン方式の体育会系組織にも勤務した。入社前の短期間に社会人としての常識や心構えから扱う商品の知識まで詰め込んだ。80人いた同期で、いまもその会社に残っているのはたったの3人。新人教育も担当した。そんな経験をしたからこそ、八木さんはチューター制度を「いまの時代にあっている」と実感している。

「個々のキャラクターや将来設計を踏まえて、コミュニケーションをとりながら指導できますから」

コクヨS&T CMD事業部の八木章光さん。

チューターとなるのは、新人が配属された部署の20代後半から30代後半の社員。部長が仕事ぶりや人柄などを考慮して、人材開発部に推薦。選ばれると3年間の育成計画書を作成し、上司として日々の実務の指導にあたる。チューターに義務づけられるのは、半年に1回の新人面談とその結果を踏まえた計画書の提出、そして、年に一度の研修。ふだんの実務指導は個々の裁量に任されている。

チューターとなった八木さんが自らに課したのは、少なくても月に一度は、北川さんと面談の機会を設けること。毎日、上司と部下として顔をあわせる。だが、改めて向きあって、ささいな悩みや疑問にも耳を傾けてアドバイスするようにした。「ゆとり社員」と呼ばれる世代の新人。そして女性。指導には意思の疎通と信頼関係の構築が不可欠だと考えたのだ。

指導を受けた北川さんはいう。

「もちろん厳しいなと感じた瞬間もあります。妥協を許さない方ですから。でも、納得できないところがあるととことんまで説明してくれました。八木さんは素でぶつかってきてくれるんです。しかも忙しい業務の合間をぬってご指導いただいた。ありがたかった」

厳しく接する八木さんの意図を理解し食らいついていったからこそ、反省も奮起もできた。信頼関係の賜物。北川さんが研修期間に学んだのは、仕事のスキルだけではなかったようだ。仕事に対する姿勢、何事にも真剣に向きあう情熱、信頼関係を築く大切さ……。

「最近、八木さんに似てきたなって、よくいわれるようになったんですよ」と北川さんは笑った。

コクヨがチューター制度を導入してからわずか5年で、約20%だった離職率は、6%前後にまで減少した。八木さんが語った“居場所”ができた結果だった。

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