研究者が明らかにした「腐敗の実態」

外交専門雑誌「フォーリン・アフェアーズ」は21年7・8月号で「中国は台頭し続けられるか」として特集した。その中に興味深い論文があった。ミシガン大学政治学部の准教授、ユエンユエン・アン氏による「北京のドロボー貴族」だ。

アン氏は中国の汚職は鄧小平のときに進化したと断ずる。鄧は中国を豊かにするためにひたすらカネを生み出す現実路線をとったが、党に忠誠である限り、腐敗も許したというのだ。

結果、想像を絶する腐敗が横行した。彼女が挙げたなかに鉄道担当大臣の実例がある。彼は350室の大マンション1棟と一緒に1億4000万ドル(約154億円)の賄賂を受け取っていた(※2021年7月時点)。他にも100人の愛人のハーレムを持ち、現金3トンをためこんでいた高官もいた。3トンの現金とはいったいどれほどの額なのだろうか。劇画のヒールそのものである。

中国陜西省西安の中級人民法院で汚職の罪で共に禁錮17年の実刑判決を受けた中国共産党地方幹部のチャン兄弟
写真=AFP/時事通信フォト
中国陜西省西安の中級人民法院で汚職の罪で共に禁錮17年の実刑判決を受けた中国共産党地方幹部のチャン兄弟。右側のチャン・シャオチュアン被告が党重慶市書記時代にテレビ局役員を兼任し、55万元(約730万円)以上の賄賂を受け取ったという(=2005年7月13日)

地方政府の借金は「440兆円」

摘発によってこのハチャメチャな汚職の実態は中国国民の知るところとなった。そして汚職の形態はやがてもっと進化し、土地のリースが主軸となった。中国では国土は全て国が所有し、誰も買い取ることはできない。しかし借りることはできる。そこで地方政府などは元々タダの国土を法外な値段でリースし始めた。

99年以降の20年間で、地方政府の歳入は土地のリースによって120倍にふえ、共産党のコネを利用した土地のリースが横行した。共産党が糸を引けば金融機関から無尽蔵の融資が受けられる。一部の者が天にも届くカネを手にし、実体経済とかけ離れた好景気が続いた。結果地方政府の借金は4兆ドル(440兆円)に達し、破綻地獄に近づいている(※2021年7月時点)

習氏はこうした汚職追放に力を入れたが、その追放や改革はルールに基づくのではなく、習氏につながる人脈を保護する形で恣意しい的に行われているにすぎない。これでは中国経済の真の立て直しは困難だというのがアン氏の見立てで、少なからぬ専門家が共有する解釈でもある。