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ゾウガメが長生きだということは、みなさんもよくご存知だと思う。動物の寿命を決めている因子のひとつは染色体末端にあるテロメアの長さだ。これはいわゆる遺伝子(タンパク質を合成する情報を持っているDNA配列)ではないが、染色体の構造を保持する重要な機能をもっており、細胞分裂のたびに少しずつ切れていく。ヒトでは50回分裂すると消失し、細胞は死んでしまう。ゾウガメでは100回以上分裂してもテロメアが消失せず、これがゾウガメがヒトよりはるかに長生きする理由の一つである。

もちろん生物の個体はいつかは死ぬ。「南米エクアドルのガラパゴス諸島ピンタ島で発見され、絶滅危惧種の象徴として知られたガラパゴスゾウガメ『ロンサム(孤独な)ジョージ』が飼育先で死んでいるのが6月24日、見つかった。ガラパゴス国立公園が発表した。生物学の教科書にも取り上げられ、『世界一有名なゾウガメ』だった」(2012年6月25日付 朝日新聞夕刊)。ロンサム・ジョージはガラパゴスゾウガメのピンタ島亜種の最後の生き残りといわれ、繁殖させるべく様々な試みをしたがうまくいかなかったようだ。

現在はクローン技術が発達しているのだから、ジョージの体細胞のゲノム(核の中のDNAの総体)を別のガラパゴスゾウガメの卵細胞に移植してやれば、ジョージのクローンが作れそうだが、そういう試みはしなかったのだろう。仮にジョージがオスでなくメスであったら、他にも色々とやりようがあったかもしれない。

一般に哺乳類はオスとメスの間にできた子でないと正常に発生しないが、爬虫類、両生類、魚類などでは単為生殖が可能である。

哺乳類にはゲノムインプリンティングという現象が見られる。有性生殖で生まれた子では、染色体(とその上に乗っている遺伝子たち)はオスとメスから基本的に同じものが半分ずつ来るが、哺乳類では、いくつかの遺伝子はオス由来のものしか発現せず、また別のいくつかの遺伝子はメス由来のものしか発現しないため、両方からの遺伝子がないと機能不全に陥るのである。

一方、爬虫類などでは片方の遺伝子だけあれば十分なので、未受精卵からの単為生殖が可能なのだ。少し前に、動物園で飼われていたメスのコモドドラゴンの未受精卵から子供が生まれてきたというニュースがあってびっくりした。生まれてきたのは全部オスだとのこと。コモドドラゴンのメスは、単為生殖でオスを作り、そのオスと母親が交配して、オスもメスも作れるわけだから、理屈のうえではメス1頭になっても種は絶滅しないこともあり得るのだ。

ところで、カメのオス・メスは遺伝的に決定されているのではなく、卵が育った温度によって決まるといわれている。低温で育てばオス、高温で育てばメスだ。不思議なことは同じ爬虫類でもワニは反対で、高温ではオス、低温ではメスになる。ジョージがメスであったなら、未受精卵を適当に処理することにより、雌雄の子孫も作れたかもしれない。

残念ながら人間は爬虫類のような芸当はできないので、一人ぼっちになれば絶滅は免れないけどね。

池田清彦
生物学者。1947年生まれ。早稲田大学国際教養学部教授。生物学の観点から、社会や環境など幅広い評論活動を行う。最新著書に『ほんとうの復興』(養老孟司氏との共著)、『マツ☆キヨ』(マツコ・デラックス氏との共著)がある。『すこしの努力で「できる子」をつくる』文庫版も発売中。昆虫採集が趣味。