リタイアに憧れはあるが、なにをしていいか分からない

これは、定年退職によるリタイアにも当てはまります。リタイア後の希望を聞くと、「世界一周したい」という人がよくいます。念願かなって世界一周するのはいいのですが、それは1回やったら終わりです。仮に3カ月かけて世界一周したとしても、あとの何十年という人生の過ごし方を考えるべきなのです。

趣味があればともかく、現役時代に仕事一辺倒だったために趣味がない人も多くいます。だからといって、日がなテレビばかり観ているのは、あまり幸せだとはいえません。重要なのは、現役で仕事をしているうちから、リタイア後の生きがいを設計して、そのときの自分を想像してみることです。

おそらく、現役時代に長く休む経験をしていないので、リタイアに対する憧れだけが募っているのではないでしょうか。憧れているだけなので、具体的にどう過ごすかのイメージができていないから、失敗するパターンが多いのだと思います。

1つの対策として、移住と同じように、1カ月でも3カ月でも長期の休暇をとってみて、仮のリタイアを経験してみるといいかもしれません。そこでボーッとしてみれば、「ああ、これじゃいけない。何か具体的な生きがいを考えるべきだ」と思い当たることでしょう。企業や政府には、働く人の幸せのために長期休暇をとれる制度を整備してほしいものです。

仕事や勉強こそが幸福を生み出している

高齢者だけを対象にしたものではありませんが、ここに興味深い調査結果があります。PwC Japanというコンサルティング会社が、全国約5700人へのアンケートに基づいて、どんなことに熱中している人が幸せかを調べたデータです(*5)

その結果をもとにグラフにしたのが図表2で、横軸が平均年齢、縦軸が幸福度を表しています。見ると、30代くらいの若い人は、アイドルの追っかけやテーマパーク、ゲームプレイなどに熱中していることがわかりますが、それらの熱中は意外と幸福度を高めないことがわかります。

一方、高齢になるほど幸せになる熱中が増えてきて、仕事・勉強、自然を楽しむこと、芸術鑑賞などに高い幸福度を感じていることがわかります。この図から読み取れることは、仕事をやめて何もしないのが幸せというのは間違いで、何か役に立つ仕事や勉強、自分を成長させる活動こそが幸せにつながるということです。

旅行に行くのが定年後の楽しみという人は多いのですが、この図を見ると、旅行に行ってもあまり幸せにならないことがわかります。もちろん、そのときは楽しいのでしょうが、旅行だけで定年後の時間を埋めるのは難しいでしょう。

(*5)PwC「全国熱狂実態・幸福度調査2021」