飲食店の現場は楽しいことばかりではない。医療記者で、週に一度イタリアンレストランでアルバイトをしている岩永直子さんは「うちの店のシェフは、どんな料理も味見してから出すが、それでも料理を残されてしまうことがある。スタッフだけでは質の高いサービスは提供できない。お客さんと一緒に最高の時間を創りたい。サービス業で働く一人として、そんな思いで店に立っている」という――。

※本稿は、岩永直子『今日もレストランの灯りに』(イースト・プレス)の一部を再編集したものです。 

レストランでピザを準備しているシェフ
写真=iStock.com/FilippoBacci
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一番悲しいのは「料理を残されること」

うちの店は、良いお客さんに恵まれていると思う。

お店の味やシェフのキャラクターを愛する人が通ってくれるから、混んでいる時も急かさないし、手が空いたタイミングを見計らって注文や会計の声をかけてくれる人が多い。満席でホールがバタバタしている時は、お皿を下げるのを手伝ってくれる常連さんさえいる。それでも時折、悲しいすれ違いが起きることがある。

客商売だし、飲食業が大変な時代だからこそ余計にお客さんを大事にしないといけないことはわかっている。でも、そうしづらい気持ちになることもたまにあるのがこの仕事の厳しいところだ。

なんといっても一番悲しいのは、シェフが心を込めて作った料理を残されることだ。お客さんに美味しいと喜んでもらうためにと、シェフが深夜まで仕込みをしている姿を見ているだけにスタッフとしても切なくなる。

ある時、若い男女のカップルの女性の方がパスタをほぼ残し、スプーンですくってバゲットにつけて食べるレバーペーストも、ぐちゃぐちゃにつついた状態で半分以上、残して帰ったことがあった。「お口に合いませんでした?」と言うと、「お腹いっぱいで」という。細身の女性だったので節制のためなのかもしれない。

シェフは私が下げてきた皿を見て、「美味しいのになあ。なんでだよなぁ」とガックリしている。