たとえば、コンビニでレジ前の床に足跡マークが貼られてあるのを見たことがある人は多いと思う。これもナッジ効果を狙ったもので、足跡マークがついていると、「お待ちのお客さまはここに並んでください」とはどこにも書かれていないのに、つい足跡マークのある場所に並んでしまう。店はこれによって、並ぶ人によって動線が塞がれないようにお客さんを誘導できる。

同様に、灰皿に質問をつけることで、吸い殻を道路にポイ捨てせずに、きちんと灰皿に入れる効果が期待できるのだ。この投票型喫煙所を渋谷センター街にある宇田川クランクストリートに設置したところ、設置前に比べてポイ捨てがなんと90%も減少したという。吸い殻だけでなく、ペットボトルや空き缶のゴミも減少したという。このほかにも、横浜駅西口商店街や松本駅周辺でも実証実験が行われ、同様にゴミの削減効果があったという。ポイ捨ての抑止と同時に、マーケティングのデータ集めまで一緒にできてしまうとは秀逸なアイデアだと言わざるをえない。

オーストリアの投票型喫煙所
写真=iStock.com/Elena Ivanova
人気ゲーム「スーパーマリオ」の生みの親として知られる任天堂の代表取締役 フェロー・宮本茂氏は「アイデアとは複数の問題を一気に解決するものである」と語っている。ポイ捨ての解決とマーケティングによる収益化を一挙に解決するこの喫煙所は、まさしく優れたアイデアといえる。(写真はイメージです)

そもそも、なぜ私が喫煙所に興味を持ちだしたのかといえば、私の自宅が禁煙になってしまったからだ。これまでベランダでのみ喫煙を許されていた、いわゆるホタル族だったのだが、このたび妻からベランダを含む自宅敷地内での全面禁煙を命じられてしまった。理不尽にも思ったが、妻の決定は最高裁の判決よりも重い。受け入れるしかないのである。妻を持つ読者諸兄には、わかってもらえると信じている。

そういうわけで、以前より街中にある喫煙所が気になる体になってしまった。そして、毎朝早めに官邸に出勤し、建物内のたった1カ所の喫煙所に直行してたばこに火をつけたときが、私が真の意味で目覚める瞬間だ。

疑問視される宣言の中身

そして、禁煙関連でもうひとつ気になったニュースがあった。日本郵政グループの「禁煙宣言」というニュースだ。この宣言は非常に短いので、全文を見てもらおうと思う。

私たち日本郵政グループは、「お客さまと社員の幸せ」を目指す企業理念の実現に向けて、「日本郵政グループ健康宣言」を定め、健康経営を推進しています。その一つとして、受動喫煙を含む喫煙の健康被害を低減するため、禁煙施策を推進します。日本郵政グループの喫煙率は、国の調査結果と比べて非常に高くなっていることから、禁煙意識の醸成や禁煙にチャレンジする社員へのサポートなど各種禁煙施策に取り組み、社員一人ひとりが能力を存分に発揮し活き活きと働くことができる職場環境づくりを推進していきます。

……とのことだが、具体的な取り組みを見てみると拍子抜けしてしまった。

1.本社を含む一部事業所で毎月22日を「禁煙デー」に設定し、社内喫煙所を閉鎖
2.一部の事業場で「始業から2時間の禁煙」
3.22年度の健康診断結果で血圧や血糖の判定結果が「医療上の措置や精密検査を必要とするもの」に該当した社員のうち、23年度の健康診断で「ハイリスク者」に該当する可能性が高い社員をAIで予測。医療機関への早期受診を促すリーフレットを配付する

この3つだけなのだ。禁煙が行われるのは「一部の事業所・事業場」となっており、具体的に事業所のうち何%がこの施策を行うのか、将来的にどれだけの事業所で禁煙を行う予定なのかという情報は、一切明らかにされていないし、この施策によって、どれだけ健康状態の改善が見込めるか……ということについても触れられていない。これでは、単に「イメージづくりのためにとりあえず禁煙宣言を出した」ともとれてしまう。