新聞記事の内容に誤りがないかをチェックするのが校閲記者の仕事だ。誤字脱字や不適切な表記を直し、読みやすく正確に伝わるよう「ことば」と日々格闘しているという。毎日新聞校閲記者たちのコラムをまとめた『校閲至極』(毎日新聞出版)より、一部を紹介する――。
文書をチェックする人
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「カマボコを8センチ幅に切る」?

「食卓の一品」から「宇宙の起源」まで、私たちの仕事の守備範囲は果てしなく広いと言っても過言ではありません。

それを実感できるのが、新聞社の校閲らしい「遊軍」勤務です。もちろん繁忙時には必要に応じて「ニュース面」の担当になりますが、平常時には「オピニオン面」「特集面」「くらしナビ面」など、作業が集中して大変そうなところを見計らっては、当日物以外のさまざまな紙面の校閲を黙々とこなす「名脇役」のような仕事です(と私は思っています)。当日は何が読めるのかワクワクしますが、内容によっては塗炭の苦しみを味わうこともあります。

たとえば「くらしナビ面」の校閲を何枚かフォローすると、「食卓の一品」にも必ず目を通すことになります。実はここは校閲の基本が試されるコーナー。まずは「ダイコンの拍子切り」という表記にしっかり(拍子木の形に切るので)「拍子木切り」と赤字直しを入れ、カロリーの数値は妥当か、材料、手順に誤りはないか確認しながら読み進めます。内容を追うあまり、手順が①②③④⑥となっているのに気づくのは、単純そうで意外に大変です(⑥は⑤の誤り)。

以前、「お雑煮の作り方」で「カマボコを8センチ幅に切る」というレシピを見逃し、お餅より大きい豪快なカマボコをのせた一品を出しそうになり、冷や汗をかきました(8ミリ幅に切るが正解)。

書籍名からサッカー選手の名前まで広く深い

「子どもが読んだ本の名前」を扱った特集面。映画やアニメの原作本などが広く読まれているとの解説とともに多くの作品名が列挙されています。この特集面にも登場しましたが、繰り返し誤る作品・著者名があり、気が抜けません。

『君の名は』(新海誠)、『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている』(渡航)、『あのとき、僕らの歌声は』(AAA)……ここで3冊共通の誤りに気づいた方はいらっしゃいますか? 実は作品名の最後に「。」が入るのが正解です。

油断していると『きみの膵臓すいぞうが食べたい』(住野よる)、『かがみの狐城』(辻村美月)、『蜂蜜と遠雷』(恩田陸)と痛いところをついてきます。まさに薄氷を踏む思いで慎重に乗り越えていかなければならない場面です(順番に『君の膵臓をたべたい』『かがみの孤城』「辻村深月」『蜜蜂と遠雷』が正解)。

「Jリーグ選手名鑑」「日曜くらぶ」「環境面」など違うジャンルのものを読み進めるうちに、あっという間に時が過ぎていきます。

もちろん、掲載日までに複数の目を通すことが大切です。時間に余裕があっても「再発に万全を期したい」という一文が最後まで残り、「再発防止に」の直しがギリギリになってしまうことも。私たちの仕事は広いだけでなく、深いことを思い知らされる日々です。

(2020年4月5日 渡辺静晴)