切羽詰まったぶつかり合いに肌の色や国籍は関係ない

――試合に賭ける思いは、いくら説明されても言葉では伝えられないものなのでしょうね。

一緒にプレーしてぶつかり合うからこそ、伝わるものだと思います。そんな経験をしたからこそ、ラグビーっていいスポーツだなと心から感じるようになりました。でも現役時代はラグビーという競技について、客観的に考える余裕はあまりなかったんです。

元ラグビー日本代表で神戸親和大学教授の平尾剛さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
元ラグビー日本代表で神戸親和大学教授の平尾剛さん

引退後にスポーツについて研究しはじめて、ラグビーの魅力を再認識しました。ラグビーは15人がまるで1つの身体のように動く。そのためには10のポジションに別れた15人がそれぞれの役割を果たさなければなりません。

バックスのウィングやフルバックだったぼくからすると、スクラムを組むフォワードは異なるスポーツだと感じるくらい求められる能力が違います。

最前列でスクラムを支えるフロントローの選手たちの体重は120キロを優に越えますし、ラインアウトなどで空中戦の要となるロックの選手は2メートル近い身長がある。かと思えば、スクラムハーフは世界レベルでも160センチほどの小柄な選手が少なくない。それほどポジションごと特徴があり、役割がはっきり決まっているのです。

つまり15人ひとりひとりが、与えられた役割を果たさなければ、チームとして機能しない。外国人選手が多いという以前に、ラグビーというスポーツには多様性が組み込まれていると言えます。

加えてラグビーには格闘技の要素が含まれています。切羽詰まったぶつかり合いのなかで、肌の色や国籍は関係なかった。外国人であろうが、日本人であろうが、ともに戦う仲間であり、味方なんです。

外国人選手は決して「助っ人」ではない

――なるほど。野球でもサッカーでも外国人選手というと「助っ人」という枕詞がつきがちですが、ラグビーでは「助っ人」外国人という言葉はあまり耳にしない理由がわかった気がします。

ラグビーは15人対15人という大人数で行うスポーツでしょう。レベルが上がれば上がるほど1人、2人強い選手が入ったとしても勝てません。

大学や高校で留学生を使って強化を図るチームに対して「ズルい」という声は確かに耳にします。でも大概は外野の声なんですよ。フィールドに立つ選手から「ズルい」という話は聞いたことがない。

だってそうでしょう。ルールに則って出場している留学生に対して「ズルい」と言っても始まらない。対戦したら勝たなければいけないわけですから。どうやって止めるかを考えなければならない。

それ以前にラグビー選手として、最もダサいのは怖じ気づいてタックルに行けなかったり、腰が引けたりすること。ビビったと思われるのが、一番恥ずかしい。ぼく自身の経験を振り返っても「ズルい」と感じたことはなかったですね。対戦した留学生を「怖い」と思ったことはありましたが(苦笑)。