「核心中の核心的利益」が意味するもの

①なぜ台湾は「核心的利益」なのか

それは台湾問題が中国共産党の「統治の正統性」に直接関わるからです。一般に、「核心的利益」とは、国家主権、安全保障、領土の保全及び自国の開発に関する中国の国家利益を指すと理解されています。当初、核心的利益は台湾中心でしたが、その後、この概念は拡大していきました。

2009年7月の米中戦略・経済対話で、中国側は「核心的利益」を、①国家主権と領土の防衛、②国家の基本制度と安全の維持、③経済社会の持続的で安定した発展、の3点だと説明しました。何のことはない、これでは中国側が重要と考えるものは全て「核心的利益」になってしまいますね。

中国側は、上記①に台湾、「一つの中国」原則、チベット独立運動、東トルキスタン独立運動、南シナ海(九段線・南海諸島)及び尖閣諸島が含まれるとし、2022年11月の米中首脳会談では、台湾問題を「核心中の核心的利益」だと説明しました。これは武力を使ってでも守るべき利益を意味すると理解されています。

習近平政権の誤算で軍事侵攻の可能性も

②なぜもっと早く台湾を「解放」しなかったのか

それほど重要なら早く侵攻すれば良かったのに、とすら思うのですが、これには諸説あります。一つは、朝鮮戦争勃発により台湾侵攻作戦が中断されたとする説です。一方、当時の国民党軍は米軍の強力な支援を得ており、人民解放軍には台湾を制圧する能力はなかったと見る説も有力です。

その後、中国は、1958年に台湾が実効支配する金門・馬祖に対する砲撃を本格化し米中間の緊張が高まりましたが、当時、ソ連はアメリカとの平和共存を優先したらしく、幸い大事には至りませんでした。但し、中国はその後も1978年まで金門・馬祖への砲撃を断続的に続けました。

③本当に軍事侵攻を行うのか

米軍の介入がなければ人民解放軍が台湾を単独制圧できるかもしれませんが、アメリカなどが本格介入すれば、制圧に失敗する可能性は高まります。あの慎重な習近平が、今後5~10年ならともかく、2022年、自分自身の3期目がかかった共産党大会の前後に、リスクのある台湾侵攻に踏み切る可能性はなかったでしょう。

他方、今後、中国が侵攻するとすれば、①台湾が独立宣言をする、②アメリカが台湾に関心を失う、③党内権力闘争や大衆運動で習近平が対米弱腰を批判されるなどで、習近平政権が戦略的誤算を犯す場合が考えられます。プーチン大統領の誤算によるウクライナ戦争という前例もあり要注意です。