英語で考えるときは3分の1に思考能力が落ちる

【和田】未来の話をしたいのですが、これから2050年頃までにさまざまな分野で大きなパラダイムシフトが起きてくるでしょう。この対談でも今後、価値がなくなるものとして記憶力、計算力、プログラミング能力が挙がりましたが、語学力も必要なくなりそうですね。

「ミスター円」といわれた元財務官の榊原英資さんは、歴代の財務官の中でもっとも英語ができた人で、退官後は英語での意思疎通の大切さを大学の講義や著書でも強調されていましたが、それでも「英語で考えるときは日本語で考えるときの3分の1に思考能力が落ちる」とおっしゃっていました。

ポケトークのような自動通訳機があたりまえになると、日本語で思考したことを英語で相手に伝えられるわけで、語学力はただの道具にすぎなくなる。英語がしゃべれることに価値はなくなって、話の内容がおもしろい人のほうが価値が高まるでしょう。

オフィスの近くにはビジネスマン2人と女性1人。お互いに話す
写真=iStock.com/Liubomyr Vorona
※写真はイメージです

【橘】外国人と交流するなら、その国の言葉でしゃべったほうが仲良くなれますから、そういう意味では語学力にも価値はあると思いますが、ビジネスやディスカッションの場では、テクノロジーに頼ってしまったほうが間違いがなくていいですよね。

【和田】そう思います。

論文が読めることより編集者的な発想が重要

【橘】以前は英語の論文が読めるのは特別な人だけだったし、そもそも論文自体が手に入らなかった。でも今は、論文のオープンアクセスが進んでいて、さまざまな論文を誰でも無料で読めるようになってきた。しかも自動翻訳の精度が上がっているので、わたしのように専門的教育を受けていない者でも、だいたいの意味はわかる。面白そうな論文を見つけたらどんどん翻訳させて、引用するところだけ原文と照らし合わせればいい。昔は専門家にしかできなかったことが、誰でも簡単にできるようになりました。

そうなると、これからは編集センスのほうが価値が高くなるのでは。論文が読めることよりも、どの論文をどう取り上げると面白い記事になるのか、といった編集者的な発想のほうが重要になってくると思います。

【和田】医学論文をシロウトの人が読んでどれくらい理解ができるかと考えると、専門家に多少の優位があるとしたら、テクニカルターム(専門用語)の意味がある程度身にしみていることですかね。

【橘】実際に患者さんを診てきた経験は重要ですね。