葬儀社への丸投げで起こる弊害

本来、人が亡くなってから1週間ほどは故人と、残された人々とが向き合う時間が流れる。そこに住職が入り、死者と生者の橋渡しをする。死亡直後の枕経から始まり、通夜、葬儀・告別式、火葬、初七日法要……と、住職は慌ただしく動き回る。

一連の宗教者と遺族とのやりとりは、グリーフケア(悲嘆への寄り添い)につながっていた。寺院葬が少なくなってからは、癒やしの作業がなおざりになってきているともいえる。

葬儀社主導の葬儀だと、僧侶は葬儀会場では控え室にこもることが多くなる。住職は喪主と挨拶程度の打ち合わせをした後に、読経を済ませると、速やかに自坊に戻っていく。これでは僧侶は、葬儀社がお膳立てした葬儀の歯車のひとつにしかならない。そうした現状を憂いた人物がいた。

「いま、葬儀は『価格は安く』『時間は短く』という、効率重視になっています。本来の寺院葬を取り戻すことこそが、この時代に求められていると考えたのです」

そう語るのは、寺院葬サービス「てらそうそう」を手がける株式会社しゅうごう社長の西本暢さんだ。共同事業パートナーの堀下剛司さんと共に、2021年に立ち上げた。これまで、ふたりは仏教寺院と深い関わりを持ち続けてきた。

しゅうごう社長の西本暢さん
筆者撮影
しゅうごう社長の西本暢さん

西本さんは寺の長男に生まれた。自身は出家の道は選ばなかったものの「仏飯を食んできた者として、お寺の役に立ちたい」と考え、終活関連サービス会社の鎌倉新書の常務取締役などを経て、同社を設立した。

一方で、堀下さんはお坊さんの質問サイト「hasunoha(ハスノハ)」を、2012年に立ち上げた人物として知られる。hasunohaは僧侶が人々の絶望や悩みを受け止める相談サイトとして広がりをみせ、現在回答する僧侶が300人、月間100万アクセス、回答累計は8万4000件にも上っている。

共同事業パートナーの堀下剛司さん
筆者撮影
共同事業パートナーの堀下剛司さん

そんなふたりが立ち上げたてらそうそうは、僧侶が主体となって、寺院で葬儀を執り行うことを目的とした、寺院支援サービスである。

「hasunohaの相談をみていると、悲しみに誠実に向き合えるお坊さんはとても多い。宗教者だからこそ、発せられる言葉の重みもあります。葬儀は仏法を伝える場であり、檀信徒との関係を強化できる機会でもあります。それだけに、僧侶が脇役になっている現代の葬儀は、とてももったいないことだと思うのです」(堀下さん)

そこで、寺院と葬儀社との役割を逆転させようと考えた。つまり、僧侶が「主」となって葬儀をプロデュースし、寺の本堂が葬儀会場になるというものだ。葬儀の司会も住職自身がやる。つまり、古き良き時代の寺院葬に回帰させる試みだ。

葬儀社は霊柩車やドライアイス、祭壇などの手配はするが、あくまでも住職を前面に立てて裏方に徹する。