荒川が決壊すれば地上7メートルから水が押し寄せる

ポールがあるのは江東区南砂三丁目。「砂町地区」は江戸時代に開発された「砂村新田」に由来するとされている。1659(万治2)年に相模国の砂村新四郎によって開発されたとされてきたが、その後異説が出され、当地が海浜の砂地だったことによるなど定説はない。だが、この地が「砂地」であったことは事実でそこから「砂村」という地名が生まれたことは間違いない。

東京メトロ東西線の「南砂町駅」で降りると、駅前の道路は緩やかな坂道になっている。駅の標高はわずか一メートル。坂道を数分も下っていくと公園の脇に写真にあるような不可思議なポールが立っている。

このポールには7個のリングが取り付けられているが、それぞれに意味がある。地上1メートルの位置にあるのが「干潮時海面」の高さ(深さ)を指している(リング1)。つまり、この地は干潮時の海面より1メートルも低いということになる。

リング2は「平均海面」の水位を、さらにその上のリング3は「満潮時海面」の水位を指している。つまり、この地は満潮時にはマイナス3メートルの低地と化すことになる。

そのすぐ上のリング4は、1918(大正7)年の地盤表記で、言い換えればこの地は100年で3メートル以上の地盤沈下を引き起こしたことになる。そのさらに1メートルほど高いリング5は、1949(昭和24)年の台風による高潮の高さ、それからさらにメートルほど高いリング6は、1917(大正6)年の台風による高潮の高さを示している。

そして、最も高い地点、およそ7メートルの所に位置するリング7は現在の堤防の高さを示している。言い換えれば、荒川の堤防が決壊すれば、この地点まで水に浸かる可能性があるということである。

東京水没の“最悪のシナリオ”

災害に備えるためには100年に一度起きるか起きないかの最悪の事態を想定しておく必要がある。仮に関東地方に台風による大雨が降ったとしよう。荒川、江戸川などの河川が危険水域に達したとする。時は満潮時。台風による高潮も発生している――。

水浸しになる丸の内
写真=iStock.com/kurosuke
※写真はイメージです

その時、首都圏を地震が襲ったとする。高潮に加えて津波が発生する。現在の臨海部の防潮堤の高さは4.6~8メートルなので、海水は軽々と乗り越えてゼロメートル地帯になだれ込む。さらに怖いのは高潮・津波による河川の遡上である。これによって荒川の堤防を容易に水は越えていく。

そして最悪のシナリオは、地震で河川の堤防が切れるという想定である。堤防が一カ所でも切れればゼロメートル地帯は一瞬にして巨大な湖と化すことになる。

私の想定した最悪の事態とは以上のようなものだが、忘れてならないのはこういう事態を招く確率は「ゼロではない」ということである。