東京はこれまで何度も水害に襲われてきた。筑波大学名誉教授の谷川彰英さんは「荒川沿いの5つの区には『海抜ゼロメートル地帯』があり、150万人が居住している。このエリアは荒川の堤防が決壊すれば地上7メートルの高さから水が押し寄せ、巨大な湖のようになるおそれがある」という――。(第2回)

※本稿は、谷川彰英『全国水害地名をゆく』(インターナショナル新書)の一部を再編集したものです。

日本の荒川、台風で洪水
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広大な“海抜ゼロメートル地帯”を抱える東京

東京の下町・江東区の一角に忘れられた一本のポールがある。このポールの存在は私が2012(平成24)年2月に出した『地名に隠された「東京津波」』(講談社+α新書)を執筆中に発見したもので、同書で紹介するまでは一部の関係者を除けば誰も知らない隠れた存在だった。

この本は、その前年の東日本大震災の被害を目の当たりにして「東京は大丈夫か!?」という問題意識で書いたものだが、その過程でこのポールの存在を知った。結論的に言えば東京は水害や津波に極めて弱いということになるのだが、その危険性に警鐘を発してきたのがこのポールだった。

東京が危険だという最大の理由は、人口が密集した広大な海抜ゼロメートル地帯を抱えていることである。全国の主な海抜ゼロメートル地帯には次のようなものがある。

(1)愛知県…370平方キロメートル
(2)佐賀県…207平方キロメートル
(3)新潟県…183平方キロメートル
(4)東京都…124平方キロメートル

東京都は面積では4位だが、海抜ゼロメートル地帯の居住人口は150万で他を圧倒している。東京都のゼロメートル地帯は江東区・墨田区・江戸川区・葛飾区・足立区の広範囲にわたっている。最も低い地点は江東区の大島六丁目で3.9メートルの地点である。このゼロメートルは荒川沿いに広がっており、五つの区域のほぼ半分を占めている。

これをわかりやすく言うと、このゼロメートル地帯は水深0~4メートルの巨大な湖であり、周りは川や海で取り囲まれ、その堤防が水の流入を防いでいるお陰で通常の生活が営まれているということである。逆に言うと、その堤防が決壊すると、この地帯は何メートルもの水に浸かってしまうことを意味している。

もともと、この地帯は明治の頃までは水田が広がっていた所で、東京が発展・拡大する中で、総武線、常磐線が敷かれ、水田が宅地化されて商業地域・工業地域も広がってきた地域である。