7月27日に行われた夏の甲子園神奈川県大会の決勝で、横浜高校の監督が審判のジャッジに強い疑念を示し、注目を集めた。ライターの広尾晃さんは「すべてのスポーツにおいて審判は『マスターオブゲーム』であり、その判断を否定して試合は成り立たない。勝利至上主義に陥った高校野球はスポーツの本質を見落としている」という――。
第105回全国高校野球選手権大会の開会式=2023年8月6日、甲子園
写真=時事通信フォト
第105回全国高校野球選手権大会の開会式=2023年8月6日、甲子園

神奈川県予選であった「誤審」騒動

この前の当コラムで、7月27日に行われた高校野球神奈川県選手権大会の決勝、慶応対横浜で、球審が足をつったために途中交代したことを紹介したが、この試合は「審判のジャッジ」でそれ以上の注目を集めた試合でもあった。

この試合の9回表、3対5で負けている慶応の最後の攻撃で、無死一塁で丸田選手の打球は一二塁間のゴロに。横浜の二塁手はこれを捕ると遊撃手に送球、遊撃手は二塁に触塁して一塁に送球。一塁はセーフとされたが、少なくとも二塁はアウトで1死一塁かと思われた。だが、二塁塁審は二塁走者もセーフを宣した。無死一、二塁となった直後に慶応の渡辺選手が逆転3ランホームランを放ち、慶応の劇的な勝利となったのだが……。

試合後、横浜の村田浩明監督は、「ちょっと信じられない。完全にこっちから見ても余裕のアウト。本当は僕が審判さんのところに行ってプロ野球のように言えればいいんですけど。高校野球なので選手を行かせましたけど、『離れた』の一点張りだったので。納得いかない部分もあったし、本当はずっと抗議したい気持ちもあった」と記者団に語った。

ここからネット上では「慶応は審判の『誤審』で甲子園を勝ち取った」かのような言葉が飛び交った。

審判のジャッジは「絶対にして最終」

基本的な問題として、野球の試合では「ストライク、ボール」と「アウト、セーフ」の判定は審判のジャッジで決まる。たとえアウトに見えたとしても審判が「セーフ」と言えばそれが絶対にして最終だ。誤審は存在しない。

このプレーの動画を何度も見たが、横浜の遊撃手は送球を受けて、二塁ベースの縁をスパイクで擦るようにしてから一塁に送球している。スパイクで蹴り上げられ二塁周辺の土が飛び散っている。

筆者の見るところ、昔の感覚なら確かにアウトだっただろう。

昭和の時代、一塁走者は併殺を阻止するため、ベースではなく野手に目掛けて滑り込んだり、腕を上げたりして送球を妨害していた。内野手はこうした走者のアタックを避けつつ送球するために、ベースに触れるか触れないかで送球していた。

審判は、タイミング的にアウトであれば、実際に塁に触れたか触れなかったかは重視せずにアウトを宣した。いわゆる阿吽の呼吸だ。アメリカではこれをネイバーフッドプレーと言う。ベースのネイバーフッド(ご近所)を野手のスパイクが通過したら触塁したことにするということだ。

しかし日米ともにコリジョンルールが導入され、本塁突入の際に走者がアウトを阻止するために捕手めがけて走り込んだり、捕手が走者の走路をふさぐことが禁じられるとともに、二塁でのプレーでもラフプレーは戒められ、触塁について、より厳密に判定するようになった。