川勝知事が「不適格」のよりどころとするマップ

まず、川勝知事が燕沢付近を不適格とする根拠に挙げる「国交省のマップ」について説明する。

川勝知事は会見で、「国交省がいわゆる、正確な名前を忘れましたけれども、4つぐらいの段階に分けまして、山体崩壊が、深層崩壊と言ったかもしれませんが、それが最も起こりやすいところと起こりにくいところと全部マップを色分けした、あそこの地域(燕沢付近)は、最も頻度の高いところに分類されている」などあまりにも曖昧な説明をして、燕沢付近が不適格だと断定した。

川勝知事の言う「マップ」とは、国交省と土木研究所が2010年8月に作成した「全国深層崩壊推定マップ」。

※国交省によると、「深層崩壊」とは、表土層だけでなく、深層の風化した岩盤も崩れ落ちる現象で、一度起きると大きな被害をもたらすことがあると説明している。

このマップは、日本全国各地の崩壊の推定度合いを「特に高い」「高い」「低い」「特に低い」の4段階に分けている。

燕沢だけでなく、静岡県の南アルプス全域が「特に高い地域」となっている。

このマップを根拠にすれば、JR東海は、燕沢を含めて南アルプスのどこにも残土置き場を造れない。

ただ「全国深層崩壊推定マップ」は、「簡易な調査で相対的な発生頻度を推定したものであり、各地域の危険度を示す精度はない」とする国交省の断り書きがある。つまり、日本全国を網羅したマップであり、精度の信頼性に欠けることを国交省自身が認識しているのだ。

より精度の高い別のマップがあるのに…

そのため、国交省は、あらためて「深層崩壊が特に高い地域」を対象に、2012年9月、空中写真判読などによる詳細な調査結果を公表した。

その結果が「渓流(小流域)レベル評価」である。8月3日の県専門部会でJR東海は、同レベル評価の図を示している(図表1)。

※図表1=深層崩壊渓流(小渓流)レベル評価マップの大井川上流域。国交省の資料を基にJR東海が加工し、8月3日の県専門部会で説明に使用された。
※図表1=深層崩壊渓流(小渓流)レベル評価マップの大井川上流域。国交省の資料を基にJR東海が加工し、8月3日の県専門部会で説明に使用した。(東海旅客鉄道株式会社「発生土置き場について」より)

大井川上流域の「深層崩壊渓流(小流域)レベル評価マップ」は、「相対的な危険度の高い渓流」から「相対的な危険度の低い渓流」まで、やはり4段階に分けている。

このうち、ツバクロ残土置き場計画地は下から2番目の「相対的な危険度のやや低い地域」に区分される。つまり、深層崩壊の危険度は相対的にやや低い地域であり、「最も頻度の高いところ」(川勝知事)ではない。

県専門部会に出席した森貴志副知事はじめ事務方は「深層崩壊渓流(小流域)レベル評価マップ」を確認している。

それなのに、川勝知事は定例会見で、各地域の危険度を示す精度はない「全国深層崩壊推定マップ」を挙げて、「あそこの地域は、最も頻度の高いところ」や「深層崩壊については、国交省の調査結果がある」などと述べたのだ。

これでは川勝知事が「ツバクロ残土置き場を不適格と断定した」説明はすべて筋が通らないことになる。

実際には、川勝知事は、一般の人にはよくわからない「国交省の調査結果」を持ち出して、「ツバクロ残土置き場を不適格」にするための意図的な情報操作を行ったのだ。