「結婚するっていうのは、まずね、ホテルに行くんよ」

「先生、結婚するって知ってる?」と尋ねられたので、「え、どういうこと?」と尋ねると、彼女は「結婚するっていうのは、まずね、ホテルに行くんよ」と言うんです。

結婚は「ラブホテルに行くこと」と語った小5女子(※写真はイメージです)
写真=iStock.com/Alessandro Torchiani
結婚は「ラブホテルに行くこと」と語った小5女子(※写真はイメージです)

話を聞き進めていくと、どうやら、母親が彼氏とラブホテルに行くときに連れて行かれていたらしく、そこでのことを「結婚する」と教えられていたようなのです。

そんな一般常識が通じない話が、その子からはたくさん語られます。

彼女は、お父さんが変わっても全員のことを「お父さん」と呼ばされていたそうです。

みんな大嫌いだったのに、みんなをお父さんと呼ばされた、と。そして兄弟が増えていったのだそうです。父親の違う兄弟ができていくわけですね。

親の食事を買いに行かされていた

家での暮らしは、このように決して穏やかな暮らしとは言えない状況でしたが、それでも美和は施設にいることをまだ受け入れられていなくて、とにかく母のもとへ、家へ帰りたがっていました。

納得していないものだから、施設を飛び出して、裸足で1時間半くらい走って家に帰ってしまったこともありました。

私たちは夜中じゅう探して、朝になってやっと見つけたと思ったら、自分の家に帰っていたのです。朝の4時とか5時に家から出てきたので、「何しよっと!」と声をかけたら、バツが悪そうに笑って、コンビニにお母さんの朝ご飯を買いに行くところ、と言うのです。

施設から飛び出して裸足で帰って、帰ってきた娘に温かいご飯を食べさせるならまだしも、自分の朝ご飯を買いに行かせるなんてどういうこと! とやるせない気持ちでしたが、それでも親に会いたいのが子の想いです。

結局この子は、暴れたり無断外出したりを繰り返して、施設でも面倒を見きれないということで、家庭引き取りということになりました。

家においておくべきではないから施設に来ているのに、施設が面倒を見きれず、家に帰すのです。私は児童福祉の限界や矛盾を感じ、やりきれない思いで、とても課題の残るケースでした。