従来の戦略論は、ターゲットとなる顧客や市場、あるいは競合を具体的に定義することで成り立ってきた。3つのCを見定めることで、何を目指し、どうすればそれが実現できるかを論じる戦略論が有効に機能したのだ。

3つのCが戦略にとって重要な要素であることは依然として変わりない。しかし、顧客や市場、競合を簡単に定義できる時代はとうに過ぎ去った。20世紀型の産業分類(第一次産業、第二次産業、第三次産業)は全く用をなさなくなり、ターゲットになる顧客や市場、競合が日替わりメニューで変動していく、あるいは自社の強みさえ変えていかなければ生き残れない時代になっているのだ。

先人たちがつくり上げた戦略論は一定条件下では今なお有効だし、成功への道筋を考えるヒントにはなるかもしれない。しかし、もはや正しい答えを導いてくれるとは限らない時代なのだ。現在進行形で起きている様々な経済事象は、3つのCやバリューチェーンを固定的に考える旧来の戦略論ではとうてい捉えきれないと考えるべきである。

『企業参謀』から35年、21世紀の今を勝ち残るための“戦略”の要諦とは何か。私が記してきた戦略論の系譜をたどりながら説明しよう。

『企業参謀』以後、経済のグローバル化という時代の大きな変化を予見して90年に著したのが『ボーダレス・ワールド』(プレジデント社刊)である。本書は『マインド・オブ・ザ・ストラテジスト』とともに、英紙ファイナンシャルタイムズが選ぶ「歴史上の経営書トップ50」に選ばれた。ちなみに2冊がランクインした著者は、P・F・ドラッカーと私だけだ。『ボーダレス・ワールド』で私は「グローバリゼーション」という言葉を初めて使ったが、この概念が登場したことによって戦略そのものが変容してきた。