「こころ」は脳の働きの一部にすぎない

うつ病の増加もあって、日本では近年、メンタルヘルス――「こころの健康」に対する関心が高まっています。それ自体は悪いことではありませんが、ただ、「こころの健康」というのは少々、あいまいな表現です。

「こころ」という器官が脳のほかに存在しているわけではありません。「こころ」と聞いて深淵な精神世界的なものをイメージする方もいるかもしれませんが、残念ながらそんなものはありません。

みなさんが「こころ」だと思って認識しているもの。それは自分が脳を使って認知している感覚――脳による自己認知にすぎず、脳のごく一部の働きによるものです。

つまり、「こころ」は、脳が生み出す働きのごく一部にしかすぎません。たとえば、あなたが日々、「納期を守れ!」「目標予算が未達だ!」「なんとかしろ!」と、上司にまくしたてられているとします。

朝起きるのがしんどく、仕事の効率も悪くなり、何をしていても「楽しい」と感じられない。気持ちが沈むことが増えていく。すると「上司の高圧的な態度がストレスになっているせいだ」と考えるでしょう。

ストレスの原因は「パワハラ上司」ではない

人間はもっとも納得しやすいことに原因を落とし込んで認知するクセがありますから、原因を上司に求めるのもごく自然なことです。

しかし、脳の仕組みから見ると、気持ちが沈んでいる原因は「脳の働きが落ちている」から。「上司のせいだ」というのは、あなたが「こころ」としてそう認知したというだけです。

ほとんどの人は、自分が認識できた一部の脳活動を、自分そのものの意思だと誤認して、選択し行動を起こしているのです。

裏を返せば、脳は、「こころ」以上にもっと真実を知っているのです。

私はこんな仮説を立てています。自分が認知している「こころ」の領域を広げて、認識できていなかった脳の働きにより近づけることで、人はもっと潜在能力を目覚めさせることができるのではないか、と。