高齢になったら免許を返納すべきなのだろうか。医師の和田秀樹さんは「高齢ドライバーは増えているが、死亡事故件数は横ばいで、『暴走老人が増えている』という言説に根拠はない。事故を絶対に起こしたくないなら、何歳でも返納すべきだろう」という――。

※本稿は、和田秀樹『頭がいい人、悪い人の健康法』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

車の事故現場
写真=iStock.com/Tashi-Delek
※写真はイメージです

高齢の免許保有者が増えても死亡事故件数は変わらない

インパクトがあるので確率の低いことがニュースになります。高齢者の起こした死亡事故もまた、ニュースの典型です。

珍しいから報道されるのであって、よく発生しているから報道されているわけではありません。2022年11月、福島市で97歳の男性が運転する車が歩道を暴走し、40代女性を死亡させる事故がありました。事故の直後も大騒ぎで報道されましたが、3カ月ほどして裁判で禁錮3年、執行猶予5年を言い渡されたこともニュースになっていました。

私の周囲でも、「97歳はさすがに運転させないほうがいいわよね」といった声が多く、ワイドショーでは、「どんなに運転がうまくてクルマが好きでも、15歳では公道を運転できないのだから、85歳とか年齢を定めて免許を取り上げればいい」と言っているコメンテーターもいました。

でも、ちょっと待ってください。高齢の運転者が起こした死亡事故の件数は、ここ10年ほど、ほぼ横ばいになっています。警察庁の統計によると、2009年に75歳以上による死亡事故は422件(そのうち80歳以上は180件)でしたが、2019年は401件(224件)でした。

この期間、高齢者で免許を保有する人は増加を続けており、75歳以上は約1.8倍、80歳以上は約1.9倍に増えています。つまり、高齢者の免許人口は約2倍になっても、死亡事故自体は増えていないことがわかります。

「高齢者の運転は危ない」に数的根拠はない

高齢者が高速道路を逆走したり、ブレーキとアクセルの踏み間違いによって事故を起こすたび、テレビなどで大きく報道されます。認知症のリスクのある高齢者の運転は危険だ、高齢者は事故を起こしやすいと思われていますが、これには根拠がありません。

平成30年中の交通事故の発生状況」で、免許所持者を年齢別に見ると、人口10万人当たりの事故件数(死亡事故とはかぎりません)が最も多いのは、16〜19歳の年齢層でおよそ1500件、次いで20〜24歳は876件、25〜29歳は624件です。年齢とともに少なくなって、30代から60代が450件前後と落ち着きます。

高齢者はというと、70代で500件前後、80代前半でも604件です。たしかに少し増加はするのですが、とりたてて事故率が高くなることはありません。

ましてや死亡事故を起こす確率は、高齢者だから高いわけではないのです。

「頭がいい人」は、これを峻別しています。感覚と感情で発言していると、頭が悪くなります。「頭がいい人」の思考では、「本当かな。データに戻って考えてみよう」となるわけです。