医者という職業はどれだけ稼げるのか。東京女子医科大学病院の片岡浩史さんは「世間が思っているほど、医師の収入は多くない」という。作家の佐藤優さんとの共著『教養としての「病」』(インターナショナル新書)より、2人の対談を紹介する――。
医者
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医者は思っているほど高給ではない

【佐藤】大学病院に勤務しているお医者さんは病院本体の給料は安いんだけども、アルバイトをしているからガバガバ金が入ってくるんだ、というイメージがありますが、これは昔ながらの誤解です。実際はそんなことはまったくない。

【片岡】宿直込みのアルバイトで、患者さんの急変などがあると、睡眠時間も体力も確実に削られてしまいます。私は社会保険の診療報酬請求の査定といった仕事もしていますが、その時給の設定は4000〜5000円になっています。基本的に、「医者の時給は数千円」というイメージなのかもしれません。

【佐藤】たとえば京大生が家庭教師のアルバイトをしたら、時給で5000円ぐらいはもらえるでしょう?

【片岡】現在の相場は知りませんが、私の在学中はそれとあまり変わりませんね(片岡医師は京大法学部卒業後、JR西日本に就職、その後に鹿児島大学医学部に進学)

「これはもう地獄だ」と思った状況

【佐藤】しかも医者のアルバイトには、患者が重篤な状況に陥ってしまうリスクがあります。特に夜勤は怖い。

【片岡】そうですね。状態が悪くなった患者さんが1人だけなら何とかなりますが、ときに何人も同時に調子が悪くなることがあります。たとえば同時に3人が生命の危機を迎えるということも、医者をしていると経験することがあります。そんなときの医者は、もう地獄です。それもコミコミの「日給10万円」なんです。

急変対応や看取りをどんなにたくさんしても、その額は変わりません。また、そもそも人の命を扱う仕事なので、いわゆる「バイト感覚」のような気楽な雰囲気はまったくありません。

【佐藤】たとえば、アルバイト先の病院にしっかりした看護師さんたちがいればいいけれども、看護師さんたちがみんな若手であまり経験がなくて、なおかつ看護師長がやけに威張っていてお医者さんの言うことをまともに聞かない――なんていう病院にアルバイトに行ったら大変ですよね。

【片岡】そういうケースもあるかもしれませんね。

【佐藤】人間関係をよく見ないまま、よその病院にアルバイトで外勤に行ってしまったら、ただでさえ過酷なお医者さんの仕事が、さらに過酷なものになっても不思議はない。

それから、アルバイト先が必ずしも自宅近くで見つかるとは限りません。自宅から遠い病院でアルバイトをするということになると、そこでもお医者さんの負担は大きくなります。