IAEAが「無視できるほどの量」と明言

7月7日、IAEA(国際原子力機関)のグロッシ事務局長が都内の記者会見で、福島第1原発の処理水の海洋放出について、処理水に含まれるトリチウムは「基準値を下回っており、無視できるほどの量」で、「希釈して海中に分散されるので国境を越えた影響はほとんどない」などとして、公式のお墨付きを与えた。

沿岸発電所
写真=iStock.com/TebNad
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処理水とは、発電所にある放射性物質に汚染された水を、ALPS(多核種除去設備)という工場のような施設で浄化し、放射性物質を規制基準以下まで取り除いた水のことだ。東電ではこの処理水をさらに海水で希釈して海に流す予定だ。

ALPS処理水には、しかし、唯一トリチウムという放射性物質だけは残る。これは水素の放射性同位体なので水から取り除くことは非常に困難で、だから、トリチウムは水道水や雨水、海水、食べ物、人間の体内にも常に存在している。また、原発の運転で生成されるため、どこの原発の排水にも必ず含まれている。

そこは「大きな工事現場」に変わっていた

ただ、放射線のエネルギーは極めて低く、細胞を突き抜けることもできないから外部被曝もないし、また、水銀などのように体内に蓄積されることもない。要するに、異常に多く摂取しない限り、トリチウムが環境や人体に影響を与えることは考えられない。そして、トリチウムを異常に多く摂取するということは、通常は起こり得ない。

福島第1原発の事故後、一番手に負えなかったのは、汚染水だった。山側から海に流れる地下水や雨水などが、発電所の敷地を通るあいだに残留している放射性物質と混ざりあうため、その水を外部に漏らさないように集めては、原発の敷地内に並べたタンクに溜めていた。

2023年6月29日の時点で、そのタンクはすでに1000基以上、水の量は133万7927万m3に達してしまっている(そのうちの約3割は、すでにALPS処理が終わっている処理水。参考)。いくら何でも、これを永久に増やしていくわけにはいかない。

今年の5月19日、7年ぶりに福島第1原発を見学した。7年前はまだ、働いている人々の表情に悲壮感が漂っており、現場ではすれ違う人たちが大きな声で挨拶を投げかけあい、“皆で頑張っている感”があったのをはっきりと記憶している。しかし、今回はその緊張感がすっかり消えて、サクサクと稼働している大きな工事現場となっていた。