精神安定や記憶力の維持にも役立っている

一方、アセチルコリンも、やはり神経伝達物質の一つであり、記憶の形成や強化に関与すると考えられています。

つまりテストステロンは、精神の安定や記憶力の維持などにも役立っているのです。ほかにも、テストステロンには、次のような働きがあります。

骨髄こつずいで血液を作る
・栄養・代謝物質の運搬などを行う血清アルブミンを生成させる
・赤血球の産生を促進するエリスロポエチンを刺激する
・体内で昼夜を感知する「体内時計」の機能を維持する

このようにテストステロンは、心身の健康の維持に大きく関わっているのです。

テストステロンの分泌量は、年齢を重ねるほどに減少する

ところが、テストステロンは、一生のうちで分泌量が変化し、年齢を重ねれば重ねるほど分泌量が減っていきます。

図表1のように、一般的に、男性も女性も、第二次性徴期にテストステロンの分泌量が増え、10代後半から20代前半にピークを迎えますが、その後、加齢とともに緩やかに減少してしまうのです。

また、テストステロンの分泌量は食生活や生活環境などにも左右されます。テストステロンが増えないような生活をしていると、早ければ40代でテストステロンが激減することもあります。

そして、テストステロンの分泌量が減ると、心身にはさまざまな影響があらわれます。

最初のうちは「やる気が起こらない」「外出する気になれない」「判断力や記憶力が低下する」「イライラする」「疲れやすい」「見た目が老け込んでくる」「よく眠れない」といった、病気とはいえないまでの不調でも、放置しておくとどんどん症状が悪化し、取り返しのつかないことにもなりかねません。

不足すると骨がスカスカになる

テストステロン不足によって引き起こされる深刻な症状としては、「サルコペニア」や「ロコモティブシンドローム」、「骨粗しょう症」などが挙げられます。

サルコペニアとは「加齢に伴い、筋力や身体機能が低下している状態」のこと、ロコモティブシンドロームは2007年、日本整形外科学会によって新たに提唱された概念で、「運動器の障害により要介護になるリスクの高い状態」のことです。

筋肉を丈夫にする役割を持つテストステロンが不足すると、これらの状態に陥りやすくなるといえます。また骨粗しょう症とは、「骨の量が減って(骨密度が低下して)もろくなり、骨折を起こしやすくなる状態」のことです。

骨は日々メンテナンスされ、古くなった骨を溶かし壊す作業(骨吸収)と、そこに新たな骨を作る作業(骨形成)が繰り返されているのですが、そのバランスが崩れ、骨形成が骨吸収に追いつかなくなると、骨がスカスカになり、もろくなるのです。

骨粗しょう症の原因としては、カルシウムやマグネシウム、ビタミンDなどの不足、糖尿病などの代謝性疾患などが挙げられますが、ホルモンバランスの乱れも骨粗しょう症の大きな原因の一つです。