スマホを常用していると、漢字を書こうとしても出てこない、紙の地図が読めないなど、脳の衰えを実感することも多い。東北大学加齢医学研究所の榊浩平助教は「成長期の子どもだけでなく、大人のスマホ依存も危険。ネット検索や生成AIを使うと、脳に負荷がかからなくなり、その状態が長く続けば、さまざまな弊害を引き起こします」という――。

ネット検索は「クリック→脳の報酬」で依存が高まる

「Google効果」「デジタル性健忘」といった言葉をご存じですか。

これは気になることをスマホやタブレットなどのデジタルツールで調べても、脳が働いていないため記憶に残っていないという意味。このとき脳は覚えていないというより、そもそも覚える必要がないととらえているのです。つまり脳のもつ記憶という機能を、インターネットでアウトソーシングしている状態です。

デジタルツールは人間を楽にするための道具ですが、私たちの脳は負荷がかかって初めて活動し、発達していきます。ですから若いうちから、スマホで文字を打ったり、インターネット上の地図に案内させたりして、脳をサボらせていると非常に危険です。

特に最近話題の生成AIは、脳に何かしらの影響を及ぼすと考えられています。

そもそも人間の脳は、検索して情報を得ると、知的好奇心が満たされ、脳内では報酬とみなされて喜びを感じます。かつては図書館で借りた本を読んで、情報を得ることで報酬を受けとっていました。書棚から本を探して手に取り、ページをめくって読むという一連の行為に時間と労力をかける分、記憶にも残っていました。

ChatGPTに書かせたレポートをそのまま出す大学生も

しかし、問いかけたらすぐに情報を統合して返すChatGPTは、複数のサイトを検索する必要すらなく、最短ルートで情報が得られますが、記憶には残りません。「問いかけ→報酬」を短いサイクルで繰り返すことになり、どんどん依存が高まるのではないかというのが、ChatGPTについて懸念される脳への影響です。

懸念されるといえば、情報の真偽もそうです。ChatGPTが返してくる情報は、本当かどうかわからないので、うのみにすることは非常に危険です。

ChatGPT公式アプリアイコン
写真=iStock.com/Robert Way
※写真はイメージです

私もまさに大学教員として四苦八苦しています。一部の学生がAIに書かせたようなレポートを提出してくるのです。ただ明らかに存在しない参考文献が記されているので、そこである程度見破れますが、それ以前に、実在するかしないかも確認せずにありもしない文献を平気で出してくることそのものに怖さを感じます。

常識的に考えると、これがばれたらどうしよう、単位がはく奪されるのではないか、と不安になるだろうと思いますが、推測する能力が足りず、思考停止しているのです。現在、多くの大学がAI使用についての声明を出していますが、この問題は看過できないものだと思っています。決して学生だけの問題ではなく、私たち教員も学生に対して課題の意義や学習の本質について伝えるなど、授業を改善する努力を続けることが必要であると考えています。

ただ社会人の場合は、使い方次第でしょう。効果的に使えば労働力不足や業務効率が改善されて経済効果が出るといわれていますので、うまく使うことが肝心です。

今、世界的な問題になっていますから、これからガイドラインが整っていくと思います。