「生みの親」と「育ての親」の役割分担

これを実現するには「あったらいいなをカタチにする」新市場を創造する力、新しい顧客をつくる力を高める必要がある。

この点における同社らしい手順のポイントは下記の3つだ。

①アイデア創出力:n=1/エヌイチ開発
②スピード開発:OEMや協業をフル活用し、テストマーケティングも含んだ先行発売
③わかりやすさのマーケティング:ネーミング、パッケージング、TVCFを中心として、お客様の問題を解決するシーンにこだわったコミュニケーションでコスト効率よくコンセプトを伝える

ここで小林製薬のマーケティングの中核となるn=1開発を解説する。

マーケティング部内の商品開発担当は、商品の「生みの親」としてコンセプトからネーミング、さらにパッケージに至るまでのすべてを管掌する。対して、ブランドマネージャーは「育ての親」と呼ばれ、営業や広告戦略など、“育て方のプラン”をつくる役割を担っている。この開発とマーケティング担当者は1チームとして緊密な関係を構築していて、それがアイデアから発売までのスピード感を生みだす。

大企業では一足早く「生活者志向」を採用

n=1開発とは、調査から客観的にニーズを捉えるものではない。開発担当者も生活者なのだから、生活上の問題を自分の感性・主観をベースに消費者の困り事/ニーズとして捉える。まずは自分が周囲に薦められる、よいと思えるアイデアをベースに考える姿勢だ。

これはプロダクト・アウト/生産志向でもなく、マーケット・イン/市場志向でもなく、ユーザー・イン/生活者志向である。

この着想は最近、さまざまな企業でも採用されているが、筆者が知る限りでは大企業でマーケティングの指針にされたのは小林製薬が格段に早かった。そのアイデアを初期検証する調査では、闇雲に調査会社を使わず、「自分がよいと思うこと」がどれくらい他の人に共感してもらえるか? そのアイデアのどこが面白いのか? よいと思えるのか? どうやって他の人に伝えるか? どうやったら伝わるか? を考えて、何度も何度も周囲のマーケターと壁打ちをする姿勢が徹底している。

開発・マーケティング・チームでブランドの10年先を未来洞察して、シナリオを考え、ブランドのありたい姿を設定し、そこから新製品のロードマップと研究開発ロードマップを策定するため、この連携は強固で有効だ。