小林製薬は口臭ケア商品「ブレスケア」や減肥薬「ナイシトール」などのヒット商品を数多く世に送り出している。消費者に支持される商品開発の秘訣は何なのか。経営コンサルタントの菅野誠二さんは「小林製薬は大企業のなかでも一足早く、消費者の困り事やニーズに注目する『生活者志向/ユーザーイン』をマーケティングに採用した企業だ」という――。

※本稿は、菅野誠二、千葉尚志、松岡泰之、村田真之助、川﨑稔『価格支配力とマーケティング』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。

「小さな池の大きな魚」を狙う戦略

「あったらいいなをカタチにする」ことが小林製薬の企業スローガンだ。業績(※1)は同業の花王、ライオンなどの優良企業と比較しても、小林製薬の高収益ぶりが際立つ。この高収益と価格支配力の源泉を解き明かしたい。

小林製薬が掲げるのは、「小さな池の大きな魚」戦略である。思考順序はこうだ。

①みんなが釣りに来る池は競争が激しい
②小さくてもよいから自分一人で釣る
③その池を掘りつづけて大きな魚が住めるようにする=市場を大きくする

新規で創造した市場には、比較対象となる競合商品が存在しない。そこで、提供する顧客価値に見合った任意の値付けが可能だ。これが第2部・第5章(『価格支配力とマーケティング』)で解説する「バックキャストで実現する『first to market』」の思想であり、価格支配力の源泉である。

(※1)2022年12月期売上(連結)1662億円、営業利益266億円、純利益200億円(24期連続増益)、売上高営業利益率16.0%、当期利益率12.0%である。各々事業ポートフォリオと事業規模は異なるが、競合の花王、ライオンの営業利益率がそれぞれ7.1%と7.4%。売上は花王が1兆5510億円、ライオンは3898億円。

家庭の裏庭にある水生庭園
写真=iStock.com/Bouillante
※写真はイメージです

100億円規模で5%より、10億円規模で8割

経済メディアの取材(※2)で、小林一雅代表取締役会長が下記のように答えていた。

大手企業などが勝負している大きな市場は避け、たとえ10億円しかない小さな市場でもユニークな商品を生み出すことでうちが8割のトップシェアを握れるなら、迷わずその市場を選ぼうと決めていた。
仮に目の前に、100億円の大きな市場が広がっていたとしても、うちが5位で5%のシェアしか取れないようなら捨てる。

(※2)「小林製薬の強みはダジャレじゃない、『ニッチ・わかりやすさ・執念』だ」ダイヤモンド・オンライン、2019年5月7日 5:00