取引先や生産者、消費者を株主にするメリット

自社の消費者やファンが株主になるのは、買収防衛策にもなります。取引先に株を無償増資する方法はかつてよく行われていました。株の持ち合いに近い感覚で、バブル崩壊以後はほとんど聞きませんが、以前は当たり前に行われていました。

社員に株を持たせるのも、同じような意味合いがあります。これを大々的に行ったのが2010年に相互会社から株式会社に転換した第一生命です。

相互会社では、保険の契約者は社員という位置づけになります。それを株式会社に転換し、払い込み金額に応じて株または現金を配ったのです。当時の契約者は約821万人で、このうち約150万人が株主になりました。

これで当時、第一生命は日本で最大株主を抱える株式会社になりました。当時私は野村證券に勤めていて、株主がいっきに増えたことで特需が起きたのを強く覚えています。「契約者=株主」としていく。これも面白いやり方だと思います。

取引先や生産者、消費者を株主にすることで、それぞれの声を吸い上げ、商品戦略に生かしている企業もあります。ただの取引先、生産者、消費者でなく、それぞれが株主であることで言葉の重みも違ってきます。

株主であれば、企業の発展は重要事になります。納入業者なら、いい商品を納品しようという動機が働きます。変な商品を納め、企業の業績が悪化すれば、自分のところに跳ね返る可能性もあるからです。

よい意味での緊張感が生じます。そこがふつうの取引とは違います。もちろん業績がよくなれば、配当が増えるといった形で還元される場合もあるのです。

「社員=株主」は難しい

一方、社員を株主にするのも同じような効果が期待できます。ただし社員の場合リスクも少なくありません。ある会社で、社長が自分の持っている株を社員全員に無償で配布したときです。社長としては、自分たちの仕事が株価や資本市場につながっている感覚を社員に持ってほしい、という思いがあったそうです。

ところが社員たちは「こんなによくしてくれるなら、社長についていけばいい」となり、自分の頭で考えなくなるという弊害もあったそうです。待遇をよくしすぎるのも考えもので、株をもらった喜びが業績アップではなく、社長への依存を強める方向に向かってしまったのです。

その意味では自分で身銭を切ることが大事です。給料から天引きする形で自社株を購入させる会社もありますが、社員のモチベーション向上にはこちらのほうが効果的かもしれません。