日本の政治を動かしてきたのは一体だれなのか。作家の榎本秋さんは「与党・自民党ではナンバーワンの総裁のほか、党四役(幹事長・総務会長・政調会長・選対委員長)の影響力が大きい。こうした公的な要職についていなくても、派閥の力をバックに大きな権力を持った人は『黒幕』『闇将軍』などと呼ばれていた」という――。

※本稿は、榎本秋『ナンバー2の日本史 近現代篇』(MdN新書)の一部を再編集したものです。

自民党のナンバー2は幹事長

自由民主党と日本社会党の二大政党を中心とした「55年体制」の時代において、政治的なナンバーワンは当然、総理大臣を務める自民党の総裁(党首)である。自民党内における総裁選挙に勝利することでこの地位につくのだから、自民党の主導権を握ることは日本の舵を取ることになろう。

しかし、自民党において有力者がつくポストは総裁だけではない。党三役(のちに党四役)と呼ばれる要職があって、ここについている人間は基本的に重要人物と考えてよい。すなわち、幹事長、総務会長、政務調査会長(政調会長)である。

幹事長は総裁の補佐を行ない、党全体のナンバー2と言っていい存在だ。特に55年体制時代を含む戦後日本史においては、総理大臣と自民党の総裁はほぼイコールと言っていい存在であるため、党のナンバーワンである総裁は国政に奔走させられ、党に割ける時間がどうしても減る。こうなると、幹事長こそが自民党の運営で中心的な役割を果たすことになるわけだ。そして、自民党内部を動かせるなら、当然、国政への影響力も大きい。

自由民主党
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人事を握っているのは総務会長

このあたりは、前著『ナンバー2の日本史』でも紹介した、中世の君主とその家政機関のトップの関係を思わせるところがある。鎌倉時代の執権・北条氏と内管領(北条氏宗家「得宗家」の執事)や、室町時代初期(南北朝期)における将軍・足利氏と執事などの関係がそうだ。どちらも幕府という公的機関の中の役職ではなく主君の家臣であり、主君を支える家政を取り仕切ることで実質的に国家全体をも動かす強大な力を手にするに至ったのである。

総務会長は党の最高意思決定機関の総務会のトップである。総務会は党運営や国会での活動に関しての重要事項について審議する。特に、総務会長を除く党三役(四役)など党内の重要ポストの人事はこの総務会での承認を受けたうえで総裁が決めることになっており、一方で総務会長は総務会内部で選ばれる。人事を握っている強さはいうまでもなく、総務会および総務会長の重要さがわかってもらえるのではないか。