「離婚」の言葉でこれみよがしに母親に電話

それでも「もう会社を辞める」と言って聞かず、「これからはI子ちゃんが僕を養って」と言い残して出社。帰宅すると「会社を辞めてきたから!」と宣言します。今後の生活をどうしたものかと頭を悩ませたI子さんが一睡もできずに朝7時を迎えると、隣の部屋からアラームの音が。すると夫はいつものように支度を始め、朝8時ちょうどに「行ってきます」と言って玄関を出ていきました。会社を辞めたというのは嘘だったのです。

夫の子どもっぽさに我慢の限界を感じ始めたI子さんは、一度、離婚のワードを口にしたそうです。すると、夫は隣の部屋に駆け込んで母親に電話。「I子ちゃんが離婚するって言ってる! どうしたらいい?」とわざと聞こえるように話し始めました。

I子さんとしては、本気で離婚を提案したわけではなく、SOSを発したつもりでしたが、逆にこの夫の言動を見て「この人との間に、子どもをつくるのはナシかも」とスイッチが入りました。そして私の元に法律相談にやってきたそうです。

母親の言う通りに離婚調停

離婚までの筋道を立てると、I子さんは、すぐに実行。「弁護士を依頼したのでそちらに連絡してほしい」と手紙を置いて家を出ると、モラハラ事案の中では珍しく、すぐにI子さんではなく私のところへ連絡が入りました。ところが、電話の相手は夫本人ではなく夫についた弁護士。しかもすでに離婚調停を申し立てたと言うのです。

それは母親の差し金でした。年下の嫁から離婚を言い渡されるなど一家の恥と考えた夫の母親が、息子から報告を受けた時点で、知り合いの弁護士に話を持っていったとのことでした。

そのため、そこに夫の意思はありません。母親の言う通りに調停を申し立てただけなので、いざ調停の場に臨んでも、離婚の理由も条件も、具体的なことは一切話せないのです。

話し合いが膠着こうちゃくしたため、私から調停を打ち切りにして裁判に進むよう提案すると、夫は慌てて調停室を出て、電話をし始めました。相手はおそらく母親です。「裁判なんてもってのほか」とでも言われたのでしょう、戻ってきた夫は、いろいろなことを諦めた様子で、急に態度を変えました。夫がようやく出したいくつかの条件に、I子さんも合意。こうして離婚が成立しました。

この夫の特性を一言で表すなら、「新型マザコン」です。最近の親子は仲が良く、大人になっても母親と頻繁に二人で出かけるなど親密な関係を続ける人が増えています。それはもちろん良いことですが、長く母親に甘えてきたために中年になっても子どもらしさが抜けず、極端なことを言って相手の思いやりを搾取するような言動を引き起こすのでは、と考えられます。