ネット全盛の中、テレビ離れや新聞離れが加速している。とりわけ大手紙の購読者は激減し、早期退職者を募るケースも多い。3年前まで歴史ある全国紙「毎日新聞」の敏腕記者だった髙橋一隆さん(57歳)は退職後、どんな人生をたどったのか。元同僚から「飯食えてんのか?」と連絡が入るというが、訪ねてみると、仕事や年収など意外な“現在地”が判明した――。
自社商品を前に
写真=本人提供
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早期退職か、給与減額で会社に残るか…悩ましい選択

定年まであと数年というところで突然のリストラ通告をされる。そんなケースが50代会社員に相次いでいる。現代は、会社員生活を定年まで全うしづらい時代だ。

「自分がその当事者になるとは思わなかった」

そう語るのは、髙橋一隆さん(57)。新型コロナウイルスが蔓延しだした3年前、早期退職か、給与が大減額でも会社に残るか、どちらかを選んでほしいと通達された。残る道もあった。ずいぶん苦悩したが、辞めることにした。

現在、何をしているかといえば「健水ライフサイエンス」(以下、健水)という会社の社長だ。いきなり社長……には後述するワケがあるが、現業務は一体どんなものなのか。

「主に特許技術のウルトラファインバブル精製器の製造や、飲料水販売、化粧品のOEM(他社ブランドの製造)の仕事です。実は、この他にも3社を経営し、これからも経営を拡大する予定です」

ここまで聞くと“やり手社長”のように聞こえるが、組織を率いるようになってまだ3年しかたっていない。還暦を前にしたひよっこ経営者だ。だが、面と向かうと独特の圧がある。きわめてエネルギッシュで上昇志向があるのだ。

髙橋さんのキャリアをざっと振り返ろう。

日本大学農獣医学部(当時)卒業後、帯広畜産大学大学院修士課程、そして九州大学大学院農学研究科博士課程に進学。数理統計学の分析手法を用いた農学の研究が中心だった。

農学の博士課程に進み「学者を目指していた」という髙橋さん、当然、就職はそちら方面だと誰もが思うが、全然違った。歴史ある全国紙「毎日新聞」の記者だ。ここに26年間勤務していたが、前述したようにクビになった。ネット時代のあおりで大手紙といえども購読者は減り続け、経営が苦しい状況であることは容易に想像できる。