就任当初から「親バカが過ぎる」と批判

岸田文雄首相と長男・翔太郎氏は父子鷹ならぬ親子バカである。

岸田首相は政権が発足1年を迎えた昨年10月、長男の翔太郎氏を政務担当の首相秘書官に据えた。

首相は、翔太郎氏の職務について、「休日、深夜を問わず発生する危機管理の迅速かつきめ細かい報告」「党との緊密な連携」「SNS発信への対応」などをあげ、「諸要素を勘案し、秘書官チームの即応力の観点から、総合的に判断した」と説明した。

たしかに身内を首相秘書官に充てる例は過去にもあった。2007年には福田康夫元首相が息子の達夫氏を政務の首相秘書官に起用した。康夫氏も父・福田赳夫氏の首相秘書官を務めたし、岸信介元首相は娘婿の安倍晋太郎氏を首相秘書官にしている。安倍晋三元首相も父が外務大臣だった時に外務大臣秘書官になっている。

だが、内閣支持率が続落する中での身内の登用に対しては、野党だけではなく自民党内からも「タイミングが悪い」「親バカが過ぎる」という批判が噴出した。

首相官邸を後にする岸田文雄首相(手前)。左奥は岸田翔太郎首相秘書官
写真=時事通信フォト
首相官邸を後にする岸田文雄首相(手前)。左奥は岸田翔太郎首相秘書官=2023年4月20日、東京・永田町

「親バカ人事」をゴリ押しした首相の思惑

なぜ、岸田首相は批判覚悟で親バカ人事をゴリ押ししたのか。私は、岸田首相は自分の首相としての任期がそう長くはないと思い、早く息子を後継者だと認知させておきたかったのではないかと考えている。

そうでも考えなければ、首相就任わずか1年半の間に、敵基地攻撃能力の保有、防衛費倍増計画、憲法9条改正、原発新増設など、矢継ぎ早に国民の声を無視して国の形を歪めようとする“異様”なやり方をするわけはない。できなくて元々。もし、できれば俺は安倍元首相を超えられる。そういう“妄想”に取り憑かれているのではないだろうか。

元経産官僚の古賀茂明氏は『分断と凋落の日本』(日刊現代)の中で、「安倍氏は“妖怪(岸信介=筆者注)の孫”である。そして“妖怪の孫”亡き後もなお、得体のしれない安倍的なものが政界に漂っている。まさに妖怪は滅びずいまもなお自民党を支配しているのだ」と書いている。

たしかに安倍氏の霊が岸田首相に憑依し、安倍氏が果たせなかった憲法改正、戦争のできる“普通”の国づくりへと邁進させていると考えると、妙に納得できるものがある。

岸田首相にとって安倍氏の遺志を継ぐこと以外はどうでもいいことなのだ。「金融所得課税の強化」「異次元の少子化対策」「旧統一教会と自民党議員とのなれ合いを断つ」などの発言は、その場その場の口から出まかせにすぎない。