日本人の平均寿命と健康寿命が長い理由

ここまでをまとめると、日本の平均寿命も健康寿命も世界トップのレベルであり、不健康期間も平均寿命が長い国のなかでは短いほうです。標準医療を否定してニセ医学を勧めたい人たちにとっては、非常に不都合な事実ですね。では、なぜこれほどまでに日本人の平均寿命や健康寿命は長いのでしょうか。

やはり発展途上国と先進国を比べると、先進国のほうが平均寿命も健康寿命も長くなります。なお、発展途上国の障害や死亡のリスク因子ランキングは、1位が小児の低栄養、2位が安全でないセックス、3位が安全でない水、4位が屋内空気汚染、5位が安全でない衛生設備(下水道など)、6位が手洗いの不足、7位が高血圧、8位が母乳育児支援不足、9位が粒子状物質(大気汚染)、10位が鉄欠乏でした(※6)

日本は戦争や紛争がなく平和であり、上下水道が整備されていて衛生状態がよく、子供の栄養状態も良好で、教育も行き届いており、ワクチンの定期接種も広く行われています。ただし、これらの要因は先進国の間でおおむね共通しています。先進国のなかでも日本人の平均寿命や健康寿命は長いので、ほかにも理由があるはずです。

さまざま要因が関係していて一概には言えませんが、よく指摘されているのが、日本の平等で効率的な医療システム(国民皆保険制度)による良好な医療アクセスです(※7)。一部のお金持ちだけがよい医療を受けられる国では、どれだけ医療が進歩しても国全体の健康指標の改善はたかが知れています。日本に寝たきり老人が多いことは事実でしょう。しかし、それは希望すれば寝たきりになっても医療を受ける選択肢が十分に確保されているという平等な医療制度の反映でもあります。

※6 「Global, regional, and national comparative risk assessment of 79 behavioural, environmental and occupational, and metabolic risks or clusters of risks, 1990-2015: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2015
※7 「Japan: universal health care at 50 years

健康に長生きしたい日本人が注意すべきこと

そのほか、日本人には、障害や死亡のリスク因子が比較的少ないことも一因です。たとえば、心血管疾患やがんのリスク因子である肥満の有病割合は、アメリカ合衆国で40%以上、カナダやイギリスでも30%以上であるのに対し、日本ではわずか4%という報告があります(※8)。肥満が少ないのは、食文化や身体活動性のおかげだと考察されています。

では、日本では何がリスク因子になっているのでしょうか。世界中の地域や国ごとにリスク因子を調査・分析した研究によれば、日本における主要なリスク因子は上位から、高血圧、喫煙、空腹時高血糖、塩分の多い食事、慢性腎臓病、全粒穀物の摂取不足、高コレステロール血症、果物の摂取不足、肥満、アルコールの過剰摂取です(※6)。他の先進諸国では上位の高コレステロール血症や肥満が下位である一方、塩分の多い食事が上位にあります。

健康で長生きをしたい日本人は、これらのリスク因子に注意すればいいでしょう。高血圧や糖尿病があったら治療して、喫煙していたら禁煙し、飲酒していたら節酒して、塩分控えめで果物の多い食事をとり、適正体重を維持します。当たり前の内容なので本に書いてもあまり売れません。なお、食品添加物や残留農薬を主要なリスク因子と見なす専門家はいません。

※8 「Lower prevalence of obesity in Japan due to environmental factors