フランス騎士団のお粗末な戦法

百年戦争を通じて常にフランスはイギリスに対し劣勢で、こと野戦に限って言えば戦えば必ず負けるといっていいほどでした。理由は、大まかに言って二つあります。

一つは、イギリスの秘密兵器、射程距離600メートルを誇るロングボウの存在。

二つ目はフランスの主力、騎士たちの非効率な戦い方。彼らは騎士道精神に則り、律儀に名乗りを上げてから攻撃を開始しました。おまけに封建領主、要はお殿様の集まりなので命令系統がなく、攻撃のタイミングはバラバラです。

そのため、フランスは百年戦争を通じて、

(1)名乗りを上げている間にロングボウを打たれる
(2)バラバラの突撃をかけている間にロングボウを打たれる

ということを繰り返していました。これでは勝てるはずがありません。

ところが、戦争のプロのはずの男の将軍たちが、この簡単な事実に気付きませんでした。固定観念に支配された組織というのは、古今東西を問わずそういうもので、外部から「ほら、こうしたら卵は立つでしょう」と言われなければ、解決策を見つけられないものなのです。

「序列に自由」な強みを生かして戦術を改革

しかし、素人中の素人だったジャンヌは先入観からは自由。魔法のように、これらの問題を解いてしまいました。

まず第一の問題については、大砲を採用しました。大砲なら、射程距離は800~1000メートル。ロングボウをはるかに超えます。当然、反対意見はたくさん出ました。

その頃、大砲は何故か城攻めにのみ使われるものとされていたのです。

「こいつをあそこの人が固まっているところにぶち込むわよ」
「いけません。騎士道に反します」
「戦争は勝つためにやるんでしょうが。さっさとやりなさい!!」

こんなやり取りがあったかどうかは分かりませんが、ジャンヌが貴族の将軍様たちに対して、というか誰であろうがしかりつけるような口調で話したのは史実です。序列に自由というのは、彼女が持っていた強みの一つでした。

第二の問題に対しては、突撃前の名乗りのような無意味な男のかっこつけは固く禁止。

そして、彼女自身が攻撃の先頭に立つことで、指揮系統を一つにしました。彼女は剣よりも好きと語った自前の旗を片手に何万という兵たちに向かって叫びました。

ジャンヌ・ダルク イラスト
写真=iStock.com/Christine_Kohler
※写真はイメージです

「On les aura!(あいつらやっつけちまおうぜ!)」

フランスの片田舎出身のジャンヌ独特の泥臭い、しかし、それだけに熱いこの掛け声は第一次世界大戦時のフランス軍のポスターの標語にもなりました。

そして奇跡が起きました。イギリスに7カ月もの間包囲され、窒息寸前だったオルレアンをたった1週間で解放。さらに、パテーに待ち伏せていたイギリス軍も鎧袖一触といった感じで打ち破り、パリ以南のイギリス側の勢力をほぼ駆逐しました。事実上、百年戦争はこの時に「勝負あり」になったのです。