なぜ欧州のサッカーチームは強いのか。サッカー日本代表の監督を務めたイビチャ・オシム氏は、ジェフユナイテッド市原・千葉の監督時代に、日本人選手の決定的な問題点を鋭い言葉で表現している。ジャーナリストの島沢優子さんの著書『オシムの遺産』(竹書房)から一部を紹介しよう――。(第3回)
サッカー日本代表候補選手の練習を見るイビチャ・オシム監督(=2007年2月16日千葉市内)
写真=時事通信フォト
サッカー日本代表候補選手の練習を見るイビチャ・オシム監督(=2007年2月16日千葉市内)

主体的に考えないコーチを叱りつけた

池上は当時ジェフにいた指導陣のなかでは、オシムの練習を最も長い時間外側から見ていた。

「これからシャトル・ランをするからコーンを置け」とコーチングスタッフに命じる。コーンを置いて開始すると、眉間にしわを寄せた顔でつかつかとやって来る。

「サッカーで、決まったところでターンする、なんてことがあるのか?」

コーチたちが混乱していると、腹立たしそうに指示を加えた。それは、2人でオフェンスとディフェンスに分かれ、オフェンスが次にターンし、ディフェンスはそれについていけという。バスケットボールなどで行うフットワークに似たものだった。

「こんなの当たり前だろう?」

つまり、サッカーは攻撃側に守備側がついて行くと言いたかったようだった。そこで、フォワードとディフェンスの選手は30メートルぐらいを。ミッドフィルダーには「こっちに来い!」と呼び寄せ、68メートルでターンさせた。中盤は動く範囲が広いのだから距離も長くなる。あくまでも試合のイメージを持たせようとした。

これを見学していたという池上は「じゃあ、なんで最初にコーンを置けって言ったの? ってなりますよね」と思い出し笑いが止まらない。

「恐らくオシムさんは、コーチに何のために置くのかをなぜ最初に考えないのだ、疑問に思わないのだと歯がゆかったのかもしれません。そんなふうにわざと試すことは多かった。コーチにも選手にも学んでほしかったのだと思います」