実態③「穀物肥育の酪農は公害を生んでいる」

エサである輸入穀物の価格高騰によって酪農危機が起きていると言われている。

反芻動物の牛は草を食べてきた。牧草やワラなど繊維質の多いエサを“粗飼料”という。ニュージーランドは、牧草だけをエサにしている。これに対して、日本の飼料の多くは、アメリカから輸入したトウモロコシなどの穀物に他の補助的な栄養素(飼料添加物)を加えた“配合飼料”である。粗飼料に比べ栄養価の高い配合飼料は乳量を増やす効果がある。しかし、本来草を食べていた動物に穀物等を給与すれば、ルーメンアシドーシス、蹄葉病などの発症リスクを高める

また、配合飼料を与えるため、放牧ではなく繋ぎなどの牛舎飼いとなる。牛舎飼いでは、かなりの牛が自分の体がようやく入るほどの狭いスペースに首輪で繋がれ、歩くことも許されず、エサを食べて乳を搾られるだけの一生を送る。子牛は生んでくれた母牛とは生後すぐに引き離され、輸入された脱脂粉乳を飲まされる。多くの酪農家は牛を生乳生産の機械としか見ない。日頃ひどい扱いを受けていると感じる牛が、酪農家を蹴ったり畜舎の壁に押し付けたりするなど反抗的な行動をすることによって酪農家がケガをするという事件も起きている。アニマルウェルフェアを論ずるどころではない。

農政は、主食用の米や小麦などを高い関税などで保護する一方、エサ用の穀物は、関税をかけないで安価な輸入に依存してきた。そのほうが草地開発より安上がりだったからである。土地資源に比較的恵まれている北海道でも、飼っている頭数が多くなるにつれ、配合飼料をエサとして使うようになってきている。酪農も含め、日本の畜産は輸入穀物の加工品だ。輸入飼料に依存する酪農・畜産は、輸入が途切れる食料危機の際には壊滅し、国民への食料供給という役割を果たせない。

また、放牧では、糞尿を草地に還元することで、牧草生産のための肥料代を節約すると同時に、窒素分を牧草に吸収させることで環境にマイナスの効果を与えないようにできる。しかし、牛舎飼いの酪農では、多くの酪農家が糞尿を穀物栽培に還元することなく、野積みなどをすることによって国土に大量の窒素分を蓄積させている。これは深刻な地下水汚染を起す恐れがある。欧米では、窒素分によって乳児が酸欠状態となり死亡するブルーベビー症候群が発生している。

これらは畜産公害である。経済学の基本原則からも、OECDの汚染者負担の原則(PPP:Polluter Pays Principleの略)からも、税金を課して、生産を縮小させるべきである。家畜の糞尿や牛のゲップは、温暖化ガスのメタンや亜酸化窒素を発生させる。地球温暖化への対応が求められている中、世界で検討されているのは、植物活用による代替肉、細胞増殖による肉生産など、畜産の縮小だ。穀物肥育の酪農・畜産を保護することは、公害企業に補助金を出して公害を増加させることと同じである。

御用学者の主張を鵜呑みにするメディア

なぜ、酪農について実態に即した報道がされないのか。

それはJA農協などの農業団体の利益を代弁するために活動する学者や農水省の主張に、ウソを見破る知識や能力がないマスメディアが追従しているからだ。真偽を判断する手段を持たない多くの国民は、農業ムラ、酪農ムラが発信する情報、特に、大学農学部の教授の主張は、客観的で公正なものだと思うだろう。彼らが農業ムラや酪農ムラの利益を代弁するために活動しているとは、夢にも思わない。

会議の檀上でスピーチするビジネスマン
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その代表格が、東京大学大学院教授の鈴木宣弘氏だ。

彼が『文藝春秋』2023年4月号に書いた「日本の食が危ない!」については、『農業経営者』5月号「おいおい鈴木君 鈴木宣弘東大教授の放言を検証する」で検証した。本稿でもあらためて鈴木教授の主張の誤りの一部を紹介したい。