5月6日、イギリス・チャールズ国王の戴冠式が行われる。前回の戴冠式は70年前。このときエリザベス女王が行ったスピーチは、名演説として語り継がれている。ジャーナリストの多賀幹子さんが解説する――。

※本稿は、多賀幹子『英国女王が伝授する 70歳からの品格』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

エリザベス女王
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10歳で君主に決まったときは「弟を生んで」と母に頼んだ

イギリスの女王エリザベス2世は、2022年9月8日にスコットランドのバルモラル城で逝去された。9月19日に執り行われた国葬は厳粛ながら壮麗で、イギリスの底力を見せたといわれる。女王の70年という在位期間は英王室最長で、享年96も英国君主最高齢だった。

女王は当初、君主に就く立場にはなかった。伯父エドワード8世がシンプソン夫人との結婚を望んで退位したため、弟にあたる女王の父がジョージ6世として戴冠した。この時点で長女エリザベス王女の「君主」が決定した。利発で聡明だがまだあどけない10歳の少女の運命が定まったのだ。

責任の重さから母に「弟を生んで」と頼んだというが、いったん女王になると見事な君主ぶりだった。国民に全身全霊を捧げると誓い、それを70年間守り通した。国民を愛し国民への奉仕をすべてに優先させ、国民も女王からの愛に応えた。外交分野では120か国以上を公式訪問したが、テーマはいつも和平と和解だった。「君臨すれども統治せず」を守り、政治に口をはさむことなく、平和への道筋を拓いた。